鋼長編 《If rain stops》

□第七章【鉄の靴、鉄の翼】
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「っ……!お願いアルっ………もうやめてっ……!」


息を切らしながら、涙ながらに白い腕を伸ばす。

しかしアルはリディアを一瞥し、抱き上げたままため息をつく。


「……しつこいよリディア、ダメだって言ってるよね?」


「やだ……アルおねがい……恥ずかしいよ………っ!」


赤くほてったリディアの頬を、アルは優しくそっと撫でる。


「もうあと少しだから…我慢、できるよね?」


アルのささやきにリディアは無言でうつむき……………








「だから……………市街地のド真ん中でお姫様抱っことか恥ずかしいって言ってるだろーーーーー!!!!!」




だろー!

ろー!

ろー!

ろー……



大声で叫んだリディアは、顔を真っ赤にしながらアルをビシッと指差す。



「私はもう全快なの!靴返して!でもって歩かせて!!」


「ダメだってば。お医者さんにも三日は歩かないように言われてるでしょ?」





そう。リディアの足は凍った金属の靴を履いていたせいで凍傷になりかけていたのだ。

それにリディアのやった"雨の錬成"………

彼女は『過冷却の応用だよ。』と笑っていたが、それは言うほど簡単ではない。

あんなことをすれば体力的にも大きく消耗する。



と、そんなわけでリディアはアルに抱えられて移動しているのだ。


「アルの言う通りだぞ、リディア。あんま無理すんなよ。」


「うるさいよエド!こんなところでお姫様抱っこされて、その上なんだか誤解を招く会話をしてた私の気持ちになってみろ!もう泣きたいよ!」


「わーかった!わかったからそろそろ黙れ!余計目立つぞ!!」


すでに周りの視線が痛い。

それに────




「それにそろそろ師匠んとこの店が近いんだよ。……………師匠…留守だといいなぁ……!!」


「うん…!」


一気に真っ青になった二人に、リディアは不思議そうに首を傾げる。


「なんかかなり怖がってるみたいだけど…そんなに怖い人なの?」


「怖いというか………まぁ会えばわかるさ……」


「ふぅん?…あ、あれじゃない?"カーティス精肉店"でしょ?」



リディアが指差した先にあった、"MEAT"の看板。

同時に二人の顔からサアッと血の気が引く。




「どうしよう兄さん…ボクもう帰りた………」




「へいらっしゃい!!」


「「ぎゃあっ!!」」



背後からした突然の大きな声に、彼らは踏み潰された蛙のような悲鳴をあげる。

しかしそんなことには頓着せず、男はにこやかに声をかけてくる。


「どうぞ中に入って………ってあれー?エドワード君?ひっさしぶりぃ!!」



「…あ、メイスンさんだっけ?こんちわ…」

「あっはっはー!すっかり大きくなって!」


満面の笑顔で頭をバスバス叩いてくる。

大きいと言われるのは嬉しいが、これはこれでイラっとくる。


「こっちの鎧の人は?」

「弟のアルフォンスです。お久しぶりです。」

「……………すっかり大きくなって………」


反応に困り逸らされたメイスンの視線は、自然とアルに抱えられたリディアにいく。


「綺麗な子だねー!アルフォンス君の恋人?」


「なっ!そんなわけないじゃないですか!!」

「そうですよ、私はただの……」


「あっはは!照れなくていいよ!イズミさんに会いに来たんだろ?待ってな、今呼んできてやっから。」



「…人の話聞いてないよね、この人」



ボソッと呟いたリディアの一言は届かず、メイスンは笑いながら裏口の扉を開く。


「店長!裏に珍しいお客さんが来てますよ!」

「客だぁ?」


低いドスの効いた声がしたかと思うと、ドスドスドスという、およそ人のものではなさそうな………そう、例えるならばクマか何かのような足音が響いてきた。



「エド…か?」


決して小さくない扉から、いかにも窮屈そうに出てきた巨漢に、リディアは反射で顔を青くした。
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