短編

□将来の夢
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『はぁ…』
白い紙と睨めっこをすること15分、
考えてはため息をつくという動作を繰り返していた
そしてついにお手上げだとばかりにその紙を投げ捨てると右手に持っていたシャーペンを2、3度クルクルと回した




「落ちたよ、はい」
『兵助、落ちたんじゃなくて落としたの!』




私の言葉に兵助は苦笑いを溢すと私の向かいの席に座った




「まだ悩んでたのか?」
『悩んでなきゃ帰ってるもん』




口を尖らせてぶつぶつ文句を言ってみる
ここで一応説明しておくけど今私を悩ませているのは”進路希望調査”と言うやつだ
中学生のころだったなら、いくらでも適当に将来の夢を語れたものだったが、高3になった今となっては真剣に考えざるおえなくなっていた
将来の夢と言われても特にやりたいこともなければ興味があることもなかった
だからこんなに悩んでいるのだ
一方、私の前で涼しい顔をして私を見る幼馴染こと久々知兵助には私のこんな気持ちなどわからないだろう
成績優秀だしね…




『兵助のさ、将来の夢ってなに?』




今まで何年も一緒にいた兵助だけど、将来の夢について聞いたのは始めてかもしれない
兵助も驚いたのかしばし瞬きを繰り返した後、笑って話してくれた




「俺の将来の夢はね、おいしい豆腐を世界中のみんなに食べてもらうことなんだ!」




それを聞いた私は開いた口が塞がらなかった
ぱくぱくと思うように口が動いてくれない
キラキラと目を輝かせる兵助に少し呆れながらため息をついた




『兵助さ、それ本気に言ってるの?』
「俺は本気のつもりだけど?」
『兵助は何のために勉強してきたのよ!?』
「おいしい豆腐を作るためだけど?」
『…、そうですか、そうですか。優等生の発言はやっぱり違うもんだね〜』
「なんだよそれ、」



少しバカにしたように言うと、
兵助は少し怒ったのかそっぽを向いてしまった
そんな兵助の横顔を見つめる
『(今まで悩んでたのがバカみたいっ)』
私は内心で自分を笑った
顔もしだいに緩んだ、そんな私を見た兵助は何かを思いついたように笑って口を開いた




「じゃあさ、俺と一緒に豆腐作りする?」



突拍子もない兵助の発言に思わず声を出して笑ってしまうと「本気なんだけど?」と少しむっとしたような返事が返ってきた




『それ、遠まわしにこれからも一緒にいたいって聞こえるんだけど?』



私が笑いながら冗談を言ってみると兵助はほほ笑んで言った




「遠まわしにプロポーズしてみたんだけど」
『え…』
「どう?、いや?」
『っ、嫌じゃないけどっ、』



私はなにを言ってるんだ!?
兵助もなに言いだしてんの!?
きっと今の私の顔は真っ赤だろう
兵助が笑ってるもの、私の顔を見て「可愛い」と言って笑った




「名前、」
『な、なに?』
「大好きだ!」
『なっ、バカぁ!』
「何でバカなのさ、ねぇ、名前は?」
『っ、す、、す、スキップして帰る!!』
「ええっ?名前〜、誤魔化さないでよ〜」
『うるさい!!好きだけどなによ!』
「なんでも、ないです…」




私の迫力に負けてか敬語になった兵助に笑うと兵助もつられて笑った
当分私に素直と言う言葉は無縁だと思うけれど、兵助なら大丈夫な気がする
これからもよろしくね、兵助!




『結局、進路希望調査何て書こう?』
「お嫁さんでいいんじゃない?」
『兵助ってさ、本気なのか冗談なのかわからないよね』
「これは本気」
『あぁ、そうなんですか、ってバカぁ!!』
「え〜、何か問題あったかなぁ」
『ありすぎじゃあああ!』
 

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