短編

□朝起きたら、
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朝起きると彼はそこにいた
黒く、艶やかな長い髪を朝風に靡かせている姿はすごく絵になっていた
しばし見とれていると彼はこちらに気付いたのか軽くほほ笑むと「おはよう」と言った



私は慌てて『おはようございます、』と返すと今度は嬉しそうにほほ笑んだ



何でこんなところに立花先輩がいるのだろうか、
なんと言ってもここはくノ一の宿舎だ
いくら立花先輩がすごい人だからと言って簡単に来ることはできないんじゃないのだろうか
それに何でまた私の部屋の前にいるのだろうか



様々な疑問は浮かんでは溜まっていく
私はひとまず寝起きでボサボサになっている髪を手くしでとかした
その際、立花先輩から”待った”がかかり、懐から持参であろう櫛を取り出すと私の髪をとかし始めた



『どうしてこんなとこにいたんですか?』
沈黙が嫌で思い切ってさっきの疑問をぶつけてみた


「会いたいやつに会いに来た」
そこでぷつん――と話は途切れてしまった
私が何か言うべきなんだろうけど言葉が見つからない
立花先輩の会いたい人、それだけで頭がいっぱいになってしまった
もともとくノ一から絶大な人気を誇る立花先輩に、「会いたいから会いに来た」なんて言われたら好きでなくても一瞬にして恋に落ちてしまうと思う



立花先輩は優しい
怒ると怖いって聞くけど、怒った姿なんて想像できない
私みたいに出来の悪いくノ一でもこうやって優しく接してくれる
立花先輩に好かれる女の子はすごく羨ましいと思うし、幸せだと思う
はぁとため息しかでてこない



「やっぱり会いにきてよかった」
『え、』



気がつくと立花先輩は私の前に移動していて、私の手を優しく取るとその甲に口づけを残し、
「また会いにくる」とだけ残して一瞬で消えてしまった



え。私の思考は一時停止。
手の甲に残る柔らかい感触に、顔を赤らめることしかできなかった
 

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