その後の彼等

□灯り
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やあ、こんにちは。

俺は瑠璃。

え?そんなことは知ってるからここは何処か教えろって?

そーだね。君には何も見えないよね。

この暗闇では。

ここはね、”何処にも無い場所”さ。

つまりは桃源郷、ユートピア。

意味が合わないじゃないかって?

そんなことないさ。理想郷なんて何処にも無いんだよ。

俺達は今、この世に在らざる場所に居る。

信じる信じないは君の勝手だがね。


ああっと、誤解しないでくれよ?そんなど−でもいいことを話すために君を呼んだわけじゃないんだ。

とはいえ、これじゃあ君の顔も見えないな・・・。

灯りをつけてあげようかね。

さて、俺が話したいことはね、君たち人間についてさ。

君たちを形作るものが何か知ってるかい?

なんでもいいから言ってごらん。

なになに?色欲?食欲?いやいや、そんな現実的なもんじゃなくてさー、もっとなんかこう、楽しげなものを言ってごらんよ?

知識?うんうん。一個正解。

答えはね、知識 感情 意思 だよ。

思想に限定されちゃうけど、人間の人間たる所以は思想を持っていることに在るだろ?それが正しいかどうかはともかくさ。

これに欲と付け加えると、知識欲、(極論だけど)色欲、強欲かな?

強すぎる感情は本能を呼び覚ますだろうし・・・まあ、独占欲ぐらいが適当かな。

誰かに自分のことを知ってほしい、これ自体は別に害は無いよね。

表現方法が歌になるか、詩になるか、小説になるか・・・・考えるだけで、楽しくならない?

ここはユートピア。好きなだけ思索をめぐらせていいんだよ?ああ、妄想したってかまわない。

誰も君を咎める者なんて、いないんだから・・・・




あれ?どうしたの?

怖い?何が?

ええ?俺が怖いって?

なんでだ?俺はただ君の話が聞きたいだけなのに・・・

いろんな歌を歌ったり、詩を作ったり・・・楽しくなかった?

・・・やっぱり君も、”帰りたい”って言うんだね。

しかたない。君の話は特別面白かったし、帰してあげる。

君の現実に。

帰りの道は気をつけてね。

暗いだろうから、灯りをひとつ、貸してあげよう。

・・・ん?ああ、返さなくて結構。

君は先ず帰ることだけ考えな。

あと、決して振り返っては駄目だよ・・・






私は暗闇の中を歩いた。

こんなところに居るはずも無いのに、父や母や妹の苦しそうな声が聞こえた。

私は走った。

同時に、怖いと思った。

思えばここへ来てから、どれくらい時間が経った?

思い出せない。どうやって来たのかさえ・・・

途中誰にも、何にもぶつかることはなく、ふと気づくと出口が見えた。

やった、帰れる・・・

私はドアを開けた。



ドアの向こうは私の部屋だった。

「やった!帰れたのね?!」

声を出すのすら久しぶりだ。

ああ、誰かと話がしたい。

「そういえば、借りた灯り、どうしよう・・・」

そう思って取り出したソレは・・・・

「〜っ?!!!」

肘から上の干からびた人間の腕だった。

爪は伸びて、黒いマニキュアが塗ってある。

魔女の腕だ。

”どうだい?ちゃんと帰れただろう・・・・”

私一人しか居ない部屋に、名も知らぬあの子の声が響いていた・・・・





あとがき

気晴らしにホラーもどきを書いてみました。

お恥ずかしながら、ネタはほとんどパクリです。

本誌でメフィストさんが戯言と題して一人語りしていたので、触発されてやっちゃいました。

ちなみに瑠璃さんがこんな目にあっても、”いらねーよ、こんなもん。”と、腕を生ごみと一緒にゴミに出すだけの話です。彼女は現実には淡白なので・・・

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