その後の彼等
□冬のすごし方
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ドイツ郊外の某所にて
『くー、すかぴーzzz』
「いい加減起きろ。」
『冬眠なうzzz』
「貴様、本当は起きているんだろう?」
『寝てるwww』
「嘘つけ!今日は昼から仕事があるんだろうが?!」
『春眠暁を覚えずって知ってる?』
「知るか!!今回の仕事はやらなきゃ生活費が尽きると言っていたのは貴様だろうが!!」
『・・・そうだった。(むくり)』
このやかましいのはメフィストという名の悪魔だ。瀕死だった彼を助けたのは俺だというのに、これじゃあまるでオカンだ。
『おはよう、おかあさん。』
「・・・まだ寝ぼけているらしいな。」
『ダークマターちらつかせんのは止めてくれる?まだ俺は死にたくない。』
「失敬な。一寸焦げただけで、これはれっきとしたスクランブルエッグですよ。」
『間違えた。かわいそうな卵だったか。』
ああ、しょげてしまった。言い過ぎたかな?
『・・・夕飯は一緒に作ろうか。』
「!」
『嫌だった?』
「しょうがないですね、付き合ってあげますよ。」
『なんだそれ?可笑しいの。』
とあえずまあ、同居人のご機嫌も直ったようで何より。彼はかなり高貴な生まれのようなので、恨みを買ってしまっては彼が後に全快したとき殺される。もちろん俺が。100や200で済めばいいのだが。
仕事といっても出稼ぎでも野良しごとでもない。俺の仕事は・・・
戦場の掃除だ。
スパイの始末。面倒な逆賊予備軍の暗殺。国にはすべて流れ弾の所為ということで報告される。
つまり俺もまた流れ弾ということだ。
避けられるだけ避けたが、返り血が付いてしまった。どっかで引っ掛けたのだろう。風呂を借りてから帰りたいが、流石に他人んちで血の付いた服を洗うのは如何なものか。
・・・同居人が嫌がるんだがな。しょうがない、裏の森で水浴びをしておこう。
『あー、生き返るー。』
仕事のあとのシャワーは最高だな。水は冷たいが、火照った体を癒してくれる。戦いの熱なんざ、さっさとおさらばするに限る。戦闘依存にはなりたくない。
『・・・いや、もう手遅れか・・・・』
『ただいま。』
「っ・・・また裏の森で体を洗ってきたんですね。そしてまたあの仕事を請けてきたんでしょう?」
『悪魔の君が血を厭うとはね。料理が出来ないのもその所為か?』
「・・・思い出すんですよ。ファウストの最期を。どうして彼があんなに満足とした顔をしていたのか・・・・己には理解らない。」
『それはきっと理解できるような類のものではないのさ。死者のみぞ知る、って奴だ。』
さて、何事も無かったかのようにお料理を始めますよ!
今日はポトフを作りたいと思います。
お肉はテールですよ。
豚さんのだったかな、牛さんのだったかな?
・・・豚さんのにしちゃでっかいな。牛さんのだな。
スペアリブもいいんだけどね。どちらもよく煮込まないと硬くて歯が立たないよ。
野菜はご近所さんからのおすそ分け。
ジャガイモはもちろん、人参、玉葱・・・大体カレーとおんなじだよ。
まずお肉をなべで焼き、なべに敷く油はバターにします。
お肉に焼き色が付いたら野菜を入れて炒めます。
もちろん全部あらかじめ一口大に切っておくよ!我が家では大体の食材が既に細かく切り刻まれて冷安室に入れてあるよ!
因みにメフィストは台所と冷安室には寄り付かないよ・・・
焼いたあとは水を足してひたすら煮るだけだよ!
味付けは塩コショウで香り付けに香草を散らします。
ベイリーフちゃんがおすすめだ。
『出来たぞー!』
「よく料理なんて出来ますね。」
『人を過去形にする作業をしてから?すまないと思うなら、きちんと食べなきゃダメだろ。”いただきます”』
「・・・イタダキマス。」
彼はいつも俺を真似て手を合わせ、イタダキマス、と言う。
食べたあとはゴチソウサマデシタ。
この言葉の意味を彼が知るのはもっともっと後の話。
あとがき
既視感バリバリのお話ですが、これでも一寸ずつ変えてるんですよ?
これは私の勝手な推測なのですが、メフィストはファウストが最期何を美しいと思い、何を願ったのか、本当はよくわかっていなかったのでしょう。
分かっていたら瑠璃に助けられるなんてことにはならなかったでしょう。
まあ、理解するものではなく、感じるものだったとかいうオチかもしれませんが。
※メフィストが時たま片言なのは仕様です。