いざ、しあわせを探す旅へ
□特別な日
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『さて。来てみはしたものの…どうしたものかな…』
現在位置はバチカン市国、サンピエトロ大聖堂。
真夜中なので普段は警備さん以外誰もいないし、その警備さんも、名誉騎士の権限をフル活用してクリスマス休暇を与えてあるらしい。
《こんな夜更けに待ち合わせかい?》
『ん?』
いきなり背後から、若い男性の声。振り返ると絵画の肖像画から、かの有名なラファエロが、半身を突き出していた。
『…付喪神みたいなもの?それとも、某魔法小説及び映画の副作用かな?』
《いろんな人が僕や僕の子供達を愛してくれたからね。死んでからも僕の子供達が愛でられる様子を見ていられるなんて、本当に、贅沢な話さ。》
『俺も貴方の絵が好きだな。渋みのある厳かな色合いに、生き生きとした表情、仕草。
貴方は人間が好きなんですね。』
《まあね。常に弱音を吐きながら、それでも必死に生きている。人間は美しいよ。
神様なんていないことはね、僕だって知っている。
でもね、出来ない事があることは良いことなんだよ。
まだ出来るようにする努力の余地があるから。
誰かに頼むのも、解決の手立てだよね。
そうやっていきていけば、神様なんて居なくても、生きてゆけるよ。》
『ほとんど必要のないものが、神様。そういう世界ならあ良いのにね。
美しさってのは、内面から滲み出るものだよ。
貴方はきっと、人々の信仰に、己を信じ、人を信じる気持ちに、体を与えたのだ。
素晴らしいことだよ。』
《おや、貴女を支えてくれる人が、もうすぐ近くに。
私はそろそろ眠りますね。
今日はありがとう。久々に絵が描きたくなったよ。》
『今度は絵筆を持ってくるね。』
《ははは。》
『ふふふ。』
「おや、浮気ですか?」
『んー?非道いなぁ、メフィスト。
俺は今も昔も君一筋だよ?
おやおや、小春も小夜も来ちゃったの?
もう寝てなきゃだめでしょうに。』
「お母さん、誕生日おめでとう!」
「あのね、小夜ね、小春と一緒にプレゼント作ったの!
受け取ってくれますか?」
『勿論。さて、何かな、何かな〜?』
可愛らしい包み紙を開けると、中から毛糸やらハギレやらで作った時計が出てきた。
針は真鍮の本物。たぶん、これを見つけてこの時計を作ろうと思い至ったのだろう。
真ん中の針止めの芯には狼の顔が付いており、フェルトに刺繍して作ってある。
文字盤は紙製で、色鉛筆やら、マジックやらで数字と絵柄が描かれている。
裏面には、白と黒と紫、そして桜色と若草色が、斑にモザイクのように配置されていた。
「瑠璃。誕生日おめでとう。
これからも私達と、共に時を刻みましょう。」
《おめでとう。》
《おめでとう。》
《おや、誕生日?それはめでたい。
おめでとう、美しい人。》
「誰ですか、私の伴侶を口説こうとする不貞な輩は!?」
『はは、は。あっはははは!
ありがと。メフィスト、小春、小夜。絵画の皆さんも。
本当に俺は幸せ者だ。』