気まぐれ短編。

□レシートはご入用か?
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「ちわー。」

『・・・お前はここに住んでんだから、只今でいいだろ。』

ある雨の日にわが店に転がり込んできた雷神トールは、買出しの戦利品を両手に抱え、店の戸をくぐった。

そう、結局彼はウチの二階に住むことになったのだ。・・・言ってしまうと同居なのだが、あんまり気にしないことにしている。

『店番頼むわ。私は奥で仕込みをしてくる。』

出来立てが一番!というのが私の持論なので出来るだけそうしているが、スープなどの手間のかかるものはあらかじめ作っておくことにしている。

「了解。」

・・・とは言ったものの、仕込みが終わってもドアのベルは鳴らなかった。

今日は真夏日で、クーラーのない厨房で汗水たらして作った冷製スープも、所在無げに黙っている。

私は例によってDSをいじっているが、そういえばトールにコレをあげると言ったのだった。

まあ、初給料で買えば?と言えば良いか・・・

周期的に木の実に水遣りをしていると、

からんころんっ

『む?』

「あっ、いらっしゃいませー!」

「やあ、ここは涼しいな。アイス珈琲をひとつ、頼めるかい?」

オ ッ レ ル ス さ ん が い ら っ し ゃ っ た。

『いらっしゃい。すぐに用意するよ。』

と、平然と言っては見たものの、内心はガクブル状態だ。

なんなんだ、この威圧感は?!

グレイプニルまで耐え切れず、悲鳴を上げている。

ぎしぎしぎしぎしぎしぎしぃっと、まるで家鳴りのように音に鳴らぬ音が響く。

私はコーヒー豆と珈琲メーカー(と呼ぶのかどうか知らんが、豆を挽く機械)を手にカウンターに戻る。

「へえ、本格的だね。」

『淹れたてが一番おいしいですから。』

「仕事熱心だな、フェンリルさんは。」

『?!』

ギッとトールの方を見やるが、亜音速で目を逸らされた。

にゃろう、覚えていろよ。フェンリルなんて有難くもないあだ名広めやがって。

オッレルスはその様子をほほえましく眺めつつ、ふと思いついてメニュー表をめくってみた。

そこには・・・

”裏メニュー

南極パフェ:350円 親子丼:450円
誕生日ケーキ(デザインはご注文のとおりお作りします。)1ホール:750円・・・

と、某復活の呪文より密度の濃いメニューが書き連ねてあった。

主にある一人の客がえらく抽象的な頼み方をするがためにこんなにメニューが増えたのだと言う。

裏メニューとはいえ、口頭で言うにはあまりに不便なので、書き連ねていった結果がコレだ。

「じゃあ、南極パフェひとつ。」

『はい、只今(結局それ頼むんですかああああ?!)。』

心の中だけで突っ込みつつパフェを作る。

ペンギンの形のアイスをコップで作り、アザラシクッキーを添え、氷山に見立てたアイスに砂糖菓子の飾りを振りかけた。

『はい、おまちどうさま。』

「・・・かわいいね。」

心なしかうれしそうにパクつくオッレルスさんは、とても魔神になるはずだった人とは思えないくらい穏やかに見える。

氷山から崩し始め、ペンギンに匙を入れるのを躊躇い一頻り悩んだ後、スマフォで写メを撮って誰かに送ったようだ。

多分送り相手はフィアンマさんだな。

・・・何気にこの二人、仲が良い気がするんだが、気の所為だろうか?




「じゃあ、また来るね。」

と、会計を済ませて立ち去るオッレルス。

私は”ありがとうございました。”と、お決まりの挨拶で返したが、トールの方は一瞬私とオッレルスさんを睨んでいた気がする。

・・・なんでだ?


『えらく不機嫌だね、トール。』

「・・・気のせいだろ。」

いーや、気のせいじゃないね!どこぞの電撃少女よろしく額から電流を散らすトールは怒った猫のようだ。

店じまいをした後、上の部屋で皆々にくつろぐのが日課なのだが、今日はそうも行かない。

『ああ、オッレルスさんは君がグレムリンを辞めたきっかけなんだっけ?

でも、それだけで不機嫌になるってことはあるまい?』

「・・・オッレルスは殆ど魔神だ。奴は基本博愛だが、自ら守ると決めたもののためならそれを脅かすものに容赦はしないし、何だって利用する。」

『私が利用されるかも、ってか?

それならせめて私の話を他所でするのは止めて欲しいな。

まあ、悪気はないんだろうケド。』

オッレルスにしろ、トールにしろ、ね。

そう付け足しつつ、シュルリとはずしたエプロンと三角巾の下からは、獣の耳と尻尾が現れた。

良く見れば狼のそれだと解るだろう。

夕日が反射して銀に輝く髪と眼、そして同色の尻尾と耳が示すとおり、

私は狼人間なのだ。

それゆえの”フェンリル”

マリアン同様、生粋の狼人間である私は、なるほど危険人物だろう。

まあしかし・・・

『それでも不安なら、君が私を守ってくれれば良い。そうだろう、トール?』

ゆるく抱きつきつつそう言うと、とたんに顔を赤くするトールを、私は心から愛しく思った。





あとがき

トールさんは正攻法が苦手なのでは?と、勝手に妄想してみたり。(ミサカ風)

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