※本誌ネタバレ


※173Qに触発されて







「黄瀬」
「あ…青峰っち…?」





福田総合高校――灰崎祥吾との試合を終えて。


ロッカールームで痛む足にテーピングを施している時、突然青峰が黄瀬を訪ねてきた。予想外の訪問者に、黄瀬は足の痛みも忘れて青峰の元へ走り寄った。





「どうしたんスか? 青峰っちがわざわざこんなとこにくるなんて…」
「決まってんだろ。お前の様子見に来たんだよ」
「俺の…?」
「足」





言って、青峰はテーピングの施された黄瀬の足を一瞥する。黄瀬はその視線と言葉の意味を理解し、決まりの悪そうな顔をした。





足を痛めていることは、青峰には黙っていた。心配かけたくなかったし、この程度で弱音なんか吐いてたら、青峰を倒す、なんて夢のまた夢だと、変に意地になっていたからだ。だから青峰に会う時は、いつも巧妙に隠していたのだが…。






「(やっぱ、バレちゃった…スよね…)」





当然だと、黄瀬は思う。灰崎に技を奪われ続けた挙げ句、足の痛みに通常プレーもままならなかったのだ。今日のプレーはきっと、青峰に焦燥感と違和感しか抱かせなかっただろう。そうじゃなければ、青峰がわざわざここに来るはずない。





「調子、そんな悪ィのか?」
「そんなにヒドくないッス。たまに痛みが走る程度ッスよ」
「ふーん…」





頷いたものの、青峰はあまり信用していないようだった。黄瀬の強がりなど、青峰にはお見通しなのかもしれない。




立ち話もなんだし…と黄瀬は青峰にベンチに座るよう促す。意外にも青峰は素直に従った。黄瀬の足を気遣ってのことかもしれないが、黄瀬がそれに気付くことはなかった。







二人はベンチに並んで腰掛ける。その距離は近いようでいて遠い。青峰に距離を置かれているのではなく、黄瀬が距離を置いているのだ。バレているかもしれない強がりを、悟られないように。




沈黙が流れる。黄瀬の足を気遣い、笠松達は一足先にロッカールームを出ている。故に今、ここに居るのは黄瀬と青峰の二人だけだ。





「…正直よぉ」
「なんスか?」





沈黙を破ったのは青峰だった。天井を仰ぎ見ながら、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。





「お前が灰崎に負けんじゃねぇかって、ガラにもなくハラハラした」
「…やだなー青峰っち。負けるわけないじゃないッスか。見くびりすぎ」
「そうさせたのはお前なんだよ」





ギロリ、と横目で睨まれ、黄瀬はその眼光から逃れるように身を小さくした。どうやら思ったよりも、今日の自分は青峰を苛立たせてしまったようだと考えながら。







ハラハラさせられたことに。





――怪我を隠されていたことに。





「ったく…」





後ろ頭を掻きながら、青峰は溜め息をつく。そして――





「わっ…」





青峰の手が伸び、そのまま黄瀬を抱き寄せた。一気に詰められる二人の距離。肩に青峰が頭を埋めてきて、それはまるで甘えるような仕草で。






今までこんな風に青峰の体温を感じた覚えのない黄瀬は、青峰の突然の行動に目を白黒させた。今まで青峰に抱き寄せられたことが無いわけではないが、これまではなんとなく、そういう雰囲気に乗せられて…といった感じだった。


でも、今回のこれは、今までのものとは明らかに異なる。こんな――余裕を削がれた青峰の温もりなんて、黄瀬は知らない。





「あ…おみね、っち…?」
「心配掛けんじゃねぇよ、このバカ」
「……ぁ…」





吐き出された弱々しい叱咤。それに黄瀬は身を固くする。背筋を駆け抜けるのは覚えのない後悔。それに呼応するように霞む、視界。






黄瀬にも、やっと分かった。黄瀬が思った以上に、青峰は黄瀬を心配してくれていたのだと。本当に、灰崎に負けてしまうと思わせてしまったのだと。それによって、いつもの大胆不敵な振る舞いを、彼からこそぎ落としてしまっているのだと。









そして、こんなにも――青峰に愛されていたのだと。









「……っ」





込み上げてきた涙を、奥歯を噛み締めて押さえ込む。駄目だ、泣いちゃいけない。泣いたらまた心配を掛けてしまう。そんな弱さ、青峰に晒すわけにはいかない。





黄瀬が望むのは、あくまでも対等な立ち位置。擁護されるでもなく、擁護するでもなく、あくまで対等に、青峰と並んでいたいのだ。







「…バカは、青峰っちの方ッスよ」





両腕を青峰の体に回し、強く抱き締める。そしてもう一度、「ホント、バカ」と繰り返す。





「俺がそんな簡単に、ショウゴ君に負けるわけないっしょ。あんな奴に負けるような……壊されるような、やわな俺じゃないッス」
「そう思わせたのはテメェだって、言ったろうが」
「それがバカって言うんスよ」





まだ何か言いたそうな青峰を、黄瀬は腕の力を強めることで静止させた。






「俺は黄瀬涼太。キセキの世代の一人ッス。まぁこの呼び名に固執したりはしてないッスけど…そんな俺が、簡単に諦めるとか、有り得ないじゃないスか」





初めて試合に負けたあの日から、黄瀬は努力を怠ることは無かった。練習を重ね、技を磨き、仲間達と信頼関係を築き続けた。




全ては、誠凜に勝つために。そして――





「青峰っち。俺はアンタに勝つまで、もうなんにも諦めないって決めてるんス」
「…黄瀬」
「だから、青峰っちは青峰っちらしく、不遜な態度で構えててくれればいいんスよ。こんなの、青峰っちらしくないッスよ?」
「……こんな俺見せんの、お前だからだっつーの」
「それはそれは、至極光栄ッス」





軽口を叩き合い、抱き合ったまま、二人は小さく笑った。ここに来てようやく、二人はいつも通りの『黄瀬と青峰』になることが出来た。つまらない意地も、余計な心配も、全部全部かなぐり捨てて。





普段通りの黄瀬涼太と、青峰大輝になった。






「心配してくれてありがと、青峰っち」
「次おんなじ思いさせたら、壊れるまで犯すからな」
「不吉なこと言わないでほしいッス!」
「…好きだ、黄瀬」
「…このタイミングで言うのは、ズルいッスよ」





ズルい、ともう一度呟いて、黄瀬は青峰の肩口に自身の顔を隠すように埋めた。













本番はこれからだ
(とりあえず不安要素だけ潰しとくか…)
(なんか言ったッスか?)
(別に)






そしてこの後青峰が愛の拳で灰崎君ぶっ飛ばすんだと…!


n番煎じですが173Qショックに乗って。しかし一週間の遅刻であるチクショィ(^q^)← 初めて青黄書いたが、黄瀬があんまし受け受けしくならない謎。俺が書くから悪いんだよな、うん←



つか俺黒バスハマってから色んなのに手出しすぎだろなにやってんだ(お前だ)。






栞葉 朱那

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