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□黒い犬と赤毛の野良猫〜邂逅編〜
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エリダナ市――午前二時。

深夜の路地裏を駆け抜ける慌ただしい靴音。
数人の人間が立てる騒がしい物音をやり過ごし、彼は、ひょっこり立ち上がった。
頭の飛行眼鏡が、何気に少年じみた可愛らしい雰囲気を醸し出している。おさまりの悪い黒髪と悪戯っぽい光を湛えた黒瞳、奇妙に袖の長い上着が目に付く姿。洒落者らしくラフに結んだネクタイのタイピンが、きらりと街灯を反射して光った。
「もう……騒がしすぎだよう」
唸りながら呟く。そして辺りを確認。
「………………ここ、何処だろ?」
実は彼――ベルドリト・リヴェ・ラキ――は、現在進行形で迷子であったりなかったり。エリダナ市の地理にあまり詳しくない上に、今の彼は追いかけてくる人数から逃れるために〈量子過身軀偏移〉の咒式を連発した結果、さて此処はいったい何処でしょう?な状況にあるのであった。
先刻からの追手は、以前お仕事で敵対した、とある組織の方々だ。皆殺しのラキ家の仕事といえば剣呑なものに相違なく、ちゃらんぽらんに見えて実はきっちり仕事するベルドリトによって組織のボスを殺された連中と街中でばったり遭遇してしまうとは、不運なことこの上なかった。
「せっかくエリダナに来れたんだからガユス君ともへもへ遊ぶ予定だったのにぃ〜」
ぼやくベルドリト。
そう、ちょうどエリダナ市への出張があったから。しかも、いつもならこういう機会を逃さない双子の兄は、折悪しく他の仕事で他所へ出張中。
これってばチャンスじゃ〜ん♪とばかりに飛びついたベルドリトだ。今現在、彼の心を捉えて放さない錬金術師とお近づきになれる!と、逸る心を抑えてやって来たというのに。
仕事でもないのに殺しをやるつもりはないのだが、この状況――なんか八つ当たりのひとつもしたくなるというものだ。

と、そのとき。
「あ――!? あれぇ?」
思わず目を疑ってしまう。この狭い路地から見える大通り――さすがに深夜だけあって、人通りは絶えている――を歩いている人影。街灯の光を弾いて綺麗な赤毛のあの頭は――ガユスでは!?
「わーい!! ガユス君だぁ〜っ!!」
ほんの一ッ飛びで飛びついて、がばあっと抱きつくと、もの凄く驚愕している気配。そこがまた可愛い。
「ガユス君、ガユス君、ガユス君っ!! やぁっと会えたぁ〜vv」
「な、なななんなんだ!?」
いきなり背後から抱きしめられた場合、大抵の人はびっくりするだろう。もれなく赤毛の錬金術師も驚愕の叫びと共に振りほどこうともがく。
勿論、体術にも長けたベルドリトが、それを許す筈もない。巧みに抱きすくめた華奢な痩躯の纏う開襟シャツの裾から、するりと手を差し入れてみたり(セクハラ☆)
「お、おまえっ!! ベルドリト!?」
「当ったり〜。とゆーわけで、見事当てたガユス君には僕から濃厚愛撫をのいのいっとプレゼントしてあげるねっvv」
「いらんわーーっっ!!!!」
ガユス絶叫。無理も無い。やるといったら絶対に成し遂げるベルドリトの気性を思い知らされているガユスなのだ。
まるで罠にかかった小動物みたいにじたばたと足掻く錬金術師だが、如何せん相手が悪かった。
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