SSS

□友情と劣情の狭間について
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エリダナ市。深夜。

薄暗い道を酔っ払いがふらついている。夜目にも鮮やかな銅色の髪。鼻先の知覚眼鏡がクールな印象。
もっとも今は、でんでろりんに出来上がってる立派な酔っ払いの見本だが。
ガユス・レヴィナ・ソレル。れっきとした十三階梯にも及ぶ高位の攻性咒式士だ。このエリダナ市全域を当たっても、これほどの咒式士は数が限られる。

さて、そのガユスが、何故にまたこうなっているのかといえば――
例によって例の如く、超高性能全自動借金製造マシーンな相棒がまたもややらかした無駄遣いを咎めだてした結果、いつものようにあっさりと切り捨てられてしまい、グレているのであった。
何しろ彼らの咒式事務所ときたら、送りつけられる請求書の額だけはエリダナ市の大手咒式事務所並みなのだ。収支のバランスが、まるで取れていない。それをどうにか遣り繰りしているのは、偏に事務所の経理全般を一手に引き受けている彼ガユスの手腕なのだが――
如何に彼がその類い稀な頭脳を駆使してみたところで、おのずと限界があるのだ。いくらガユスと言えども、何も無いところから金を生み出す真似は出来ない。錬金術師と呼ばれては居ても、そう都合のよい法などある筈もない。
それなのに……嗚呼、それなのに!!
本日もまた腐れドラッケンが余計な家具を買い込んできたものだから、錬金術師の怒りの臨界点が突破してしまうのは無理なきことだ。
目の前に提示された領収書に記された金額と来た日には、ロルカ屋を見習って一日気合で25時間体制、夜も眠らずに働いたとしても到底払いきれる額ではない。この男は自分の財布の中身も数えられないのか?との真っ白な視線で見詰めてしまうガユスを責められる者はいないだろう。
しかし、そのような視線の一つや二つ、あっさりと黙殺してしまうギギナであった。
いいものは買える時に購入するべき、と考えるギギナにとって一目惚れした家具を入手する決意を翻す理由など、銀河の果てまで探したところであろう筈もない。もっとも購入した証拠物件をガユスに見咎められれば煩いことになるのは分かりきっていたから、なんとか上手くごまかそうとしていたのだが……いい手段の見つからぬまま、領収書が錬金術師の手に渡ってしまったのだ。

――で、結局開き直った剣舞士の態度に、とうとうキレたガユスが事務所を飛び出したのが今日の夕刻。
勢いで出て来てしまったものの本来がお人好しな性格のガユスである。このままバックレるという選択肢のないまま惰性でドラッケンの作成した借金返済にかかるであろう己の未来を正確無比に予見してしまい、この世には神も仏もいないのか、などと理不尽な運命に憤りつつ、自棄酒に走ってしまったのであった。
実はガユス、酒好きではあるがしかし、決して酒に強いというわけではない。今までの経験でも酔っ払った挙句にかなりヤバい状況に陥ったこと数知れず。
最近では、こともあろうにモルディーン十二翼将の一人を相手に管を巻き、揚句の果てには介抱させるという醜態を晒したばかりだ。
それでも止められないのだから、これはもはやアルコール中毒症の一歩手前といったところか。
アルコール中毒症の一因として過度のストレスが挙げられるならば、まさしくガユスの抱え込んでいる問題がそれに当たる。相棒の無謀かつ無軌道な買い物の結果を見るたびに、錬金術師の胃壁には穴が増えていくようであった。
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