SSS

□いつも君を見ていたい
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感情の読めない夜の色した双眸に見つめられ、俺は思わず視線を外す。
「駄目だよ、ガユス君。前にも言っただろう? 私と共に居る時には、ちゃんとこちらを見ていて欲しいな」
目の前には龍皇国における最重要人物。ちなみに俺がこの場に居るのは好んでではない。半ば脅迫めいたカタチで無理矢理に皇都へと連れ出された俺ほど不幸な人間は、そうはいないんだろうな。
溜息を無理矢理押し殺して、目前の貴顕に対する表情を作る。
此処がどういう場所なのか、俺は知らない。知りたくも無い。どうせ目には映らなくても周囲を十二翼将が警備しているのは当然で。
「お茶のおかわりは、どう?」
「……いただきます」
俺如きが、その包囲網を突破するのは不可能。
好意のかけらも無い俺の様子にも動じないモルディーン卿は、優雅な所作で呼び鈴を振る。
応じて室内へとやってきたのはコウガ忍だ。この相手が実は女性であったとは、情けないことについ先頃まで知らなかった。お陰でどうも態度に迷いが出る。
――仕方ないだろ。俺は女性至上主義者だ!
敵と分かっていても、こう……何というか割り切れないものがある。相棒のギギナに言わせれば軟弱者めが、などというところか。
実際は、まともに遣り合えば俺の方が不利だろう。咒式士としての能力はともかくも、戦闘に対する心構えの差がありすぎる。死すら恐れぬコウガ忍を相手取るのは願い下げにしたいところだ。
そんな俺の感情を知ってか知らずかキュラソーの手により、香り高いお茶が陶杯に注がれる。
そちらに気を取られていると、モルディーン卿の声が。
「せっかくだから何か…そうだね、君のことを話してくれないかな」
一気に警戒心を強めた俺の態度に、くすくすと笑う。
「何もそんなに警戒しなくても。ただ君のことを知りたいだけだよ。好きな人のことは、何だって知りたいものだろう?」

――うわ〜、聞きたくも無い理由です、それ。

だが俺には選択の余地がない。皇位継承権第七位にある至尊の皇族を敵に廻すほど無謀にはなれない。
そしてムカつくことに、この男もまたそれを熟知しているのであった。
何か人として大切なものが壊れてゆくのを感じながら、重い口を開く。喋るのに、こんなにも努力が必要になるなんて考えたこともなかった。
「俺――私のこと、ですか?」
「そうだよ。たとえば…どんなことが好きかとか、趣味とかね」

――イヤだなぁ、そんなの。出来れば金輪際係わり合いになりたくないんですが、とか言えたらいいのに。

思わず素直な感想が心の中をよぎって過ぎた。俺もまだまだ修業が足りないということか。ギギナだったら、こんなときどうするか。

――あ、思わず情景が浮かんでしまったぞ☆

神速の高速抜刀でモルディーン卿の首を跳ね飛ばしていたりする相棒の糞ドラッケン族が目に浮かび、俺は慌ててその不穏すぎる情景を削除する。
なんにも考えていないギギナなら、嬉々としてやるだろうな。そして漏れなく後の尻拭いは俺に廻ってくるんだろうな〜、なんてとこまで思考が辿り着いてしまい、凄く不愉快になったからだ。あのドラッケン族は、俺に迷惑をかけるのが生き甲斐になっている節があるし。

――なんで俺は、あんなのと組んでるんだ?

どうしても答えが見つからない。
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