君と僕との物語

□第十四話
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『他の人と話さないで』
『俺以外の前で笑わないで』
『俺だけ、見てて』

さっき平助から言われた言葉が耳から離れてくれない。
ベッドに勢いよく倒れ込んでも、それは消えない。
何度も頭の中で繰り返される。

完全な、嫉妬。

俺が好きだから、自分だけの俺でいてほしいって…
平助は多分、そう思ってるんだろうけど。

俺は平助のものじゃない。
恋人じゃ、ない。
いや、恋人でもそれはさすがに困るだろ。
だって…人付き合いよくないとさ。

平助だってそんなのわかってると思う。
でもあんな苦しそうな顔、みたくなくて。

どうしていいか、わからなくなる。

最後はいっぱい抱きついて満足したみたいだったけど。
あぁなる直前だって平助、笑ってた。
いつもと何も変わらなかった。

俺は、無理してる平助、見つけてあげられないのかな。
平助は俺がつらいの、気付いてくれるのに。
傍に、いてくれるのに。

そう思ったらなんか…つらくて。
一人で抱え込んでたらって思うと、不安になって。

わかってあげたい。
わかってあげられない。

平助、俺、どうしたらいい?

目を瞑ったら、平助が笑ってる。
苦しそうに、寂しそうに、笑ってる。

その哀しい笑顔は、俺のせい。

不意に、机に置いといた携帯が鳴る。
メールの送り主を確かめてみると、平助からだった。

“電話してもいい?”

何で電話するんだろう。

聞きたいことあったのかな。
言いたいことがあったのかな。
それとも、屋上の時の続き?

まだ返事もしていないのに、すぐに電話がかかってくる。
無視しようかとも思ったけど、また平助を傷付けると思って電話に出た。


「もしもし」
「あれ…ぱっつぁん、どうかした?」
「へ?」
「声、元気ない」


電話の声だけで?
なんで、元気ないって…。


「ぱっつぁんのことだから、また悩んでるんでしょー」
「…何を?」
「さっき屋上で話したこと」


屋上の時と、これじゃ立場が逆じゃないか。
俺が元気付けられてどうすんの。
平助に心配かけちゃ、ダメなのに。


「あれは俺が理不尽なこと言ってるだけなんだからね?」
「うん…」
「ぱっつぁんは悪くないし、俺は傷付いてないからね?」


なんで?
どうして、俺の考えてること…。


「…んで…」
「ん?」

「なんで、わかるの?」


涙声になったと他人事みたいに思う。

ダメだ。
また平助が心配する。

やめなきゃ、なのに…。


「俺、平助がわかんない…」


わかりたい。
気付いてあげたい。
傷付けたくない。


「平助つらいの隠すから、笑うから…俺が、気付かなきゃなのに」


平助が、そうしてくれるみたいに。
気付いてあげなきゃダメなのに。

目に涙がたまって、視界が歪む。


「俺、平助みたいに優しくなれないよ…」


平助みたいにはなれない。
優しくなんてなれない。

涙が零れて、頬を伝う。
なぜかそれは止まらなくなって。
次から次へと溢れてくる。


「…会いたい」
「え…?」
「会いたい。今からそっち行く」
「ちょ、平助…っ」


会いたい?
こっちに、くる?

何、それ。
いいって言ってないのに電話切れたし。

平助の家からなら、十分しないでこれる。

顔、洗わなきゃ。
泣いた痕見られちゃう。

もう、多分バレてるだろうけど。


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