君と僕との物語

□第五話
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暑さが厳しくなり始めた頃。

三時間目の数学を終えて、休み時間。
四時間目は…何だっけ?

暑すぎて、考えるのもめんどくさい。


「暑い日が続いています」


平助くんが壊れました。
これも暑さのせいでしょうか。
それとも俺の気のせいでしょうか。

聞き返してみましょう。


「はい?」
「暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか」


聞き間違いではなかったようです。
暑さのせいですね。
ていうかもしや俺も重症?


「…別に何もありませんよ」
「そうですか」


あっけなく会話を終わらせて、平助が俺の机にうつぶせる。
邪魔くさい。

殴ってやろうかとか思ってたら
次の英語が自習になったって誰かが叫ぶのが聞こえた。

一時間何してるかなーって考えてたら
視線投げかけてきますこのやろう。


「何ですか」
「行こ」
「は?」


クエスチョン。
今、このやろうはなんと言ったでしょう。
アンサー。


「行こう新八っつぁん!」
「いやどこにだよ勝手に行けよ一人で」

「え、一人じゃ意味ないじゃん」
「なんで」


勝手に行けばいいじゃないか。
なんで俺が付き合う?

なんか呆れたような表情で見てきやがるし。
呆れてるのはこっちも一緒だってのに。


「ぱっつぁん…ニブい」
「失敬な」


あ、ため息吐きやがった。
なんだよニブいって。
一緒に行かない奴はニブいわけ?

しかもなんで俺を下からのぞき込んでくるんですか。
心臓に悪いからやめてくんないかな。


「俺、新八っつぁんと二人でいる時間増やしたいんだ」


ふざけてるのか真剣なのか。
表情からは読み取れない。

思わず、顔が熱くなった。

ていうかあれから毎日一緒に登校してるのに。
一日のほとんど一緒にいるくせに。
だいたい、一緒にいたいなら行かなきゃいいじゃないか。

とか考えてたらいきなり腕をひっぱられて。
平助はそのまま、どこかへ向かって歩き出した。


「ちょっと平助!?」

「涼しいとこ行こ、ぱっつぁん」


連れてこられたのは、屋上。

風が吹いてる。
けど、陽の熱さは変わらない。


「うん、涼しい!」
「まぁ…教室よりは、ね」


平助は満足げに頷いて、フェンスの近くまで行ってどこかを指さした。


「ぱっつぁん、見て」
「え?」


指さしたものを見ようと思って、平助の近くに寄る。
学校の外に視線を向けた時。
後ろから、平助に抱きしめられた。


「あは、大成功」
「ッ…嘘つき!//」
「ひどいなぁ。嘘じゃないよ?」
「じゃあ何…」


平助はまたどこかを指さす。
俺を抱きしめたまま。


「ぱっつぁんち、見える」
「うん」
「あっちは俺の家」
「そうだねぇ」
「向こうは左之の家!」


うん、わからない。
最近平助くんがわかりません。
この人はいったい何がしたいんですか。


「…平助くん」
「んー?」


呑気に返事をして、俺の顔をのぞき込んでくる。
身長差が憎らしい。


「何がしたいの」
「見せたいの」
「俺、知ってますよ」
「うん。でも、知らないよ」


知ってるのに知ってない?
意味がわからない。

表情にも出てたのか、平助が笑う。


「俺にとってはね、こっからの景色全部、新八っつぁんとの思い出なんだ」


俺との?
また何恥ずかしいこと言ってるの、この人。


「あそこ、初めて会った場所」
「あー…」
「あの河原で猫と戯れてたんだよね、俺」
「そ、だね」


そうだ。

平助と会ったのは、あの河原。
中学の入学式の日だった。

平助が捨てられてた猫と遊んでて。
俺と左之は学校向かう途中で。

懐かしくて、思わず頬がゆるむ。

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