君と僕との物語

□第四話
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俺の父さんは、単身赴任で大阪にいる。
母さんは、今日は仕事で早く家を出たみたいで。

俺が起きた時には
『ご飯は自分で作って下さい』
というメモを残して姿を消していた。

何食おうかな、とか考えてたら、インターホンが鳴った。
誰だこんな朝早くにとか思ったら。

…藤堂平助くんでした。


「どしたの、いきなり…」
「ん?一緒に学校行こうと思って」


時間はまだ七時過ぎ。
学校へ行くには、八時に家を出れば十分間に合う。

しかもいつもは、俺より学校つくの遅いのに。


「早すぎじゃない?」
「…愛ゆえに?」
「阿呆」
「ぅ…いつもは馬鹿だから何気に傷付く…」
「あっそ」


とりあえず入れば、と言って、平助を招き入れる。

一応支度は終わってるけど。
さすがに、目の前で一人だけご飯を食べるのは気がひける。


「平助、朝ご飯は?」
「俺朝はいつも食べないんだ」

「身体に悪くない?」
「…おじいちゃんみたい」
「何か言った?」
「何でもありません」


思わずため息を吐く。

平助の方を見ると、いつものほどよく筋肉がついた身体が目に入る。
三食きっちり食べないで、よくその体型でいられるな。

多分、ご飯は多めに炊いてある、ハズ。
あと用意するのはおかずだけ。


「平助、好き嫌いは?」
「へ?特にないけど」
「なら良し」
「ぱっつぁん?」


平助が不思議そうに首を傾げて俺を見る。

子供みたいな目。
子供みたいな仕草。
でかい図体。

かわいいんだか、かわいくないんだか。
時々よくわからなくなる。


「飯作ったげるから、座ってな」
「…お母さん!」
「お前帰れ」
「ごめんなさい食べさせて下さい」
「ったく…」


平助と他愛ない話をしながら、料理をする。
料理って言っても、ハムエッグとみそ汁を作るだけだけど。

とりあえず。

料理を運んだ俺に
なんか新婚さんみたい!
とか言った誰かさんは殴っておいた。

平助はいただきます、って呟いてから、ハムエッグに手をつけた。


「おいしい!今すぐ俺のお嫁さんになれるよ!」
「ツッコミどころ多すぎて無理だった。ごめん」


そもそもハムエッグは人によってそんなに味が変わるのか。

そう思ったけど。
すごく嬉しそうに食べてる平助を見たら、俺もなんか嬉しくて。
また作ってやろうかな、なんて思ったりした。

食べ終わってすぐ。
三回はおかわりした平助が時計を見た。


「もう八時だよぱっつぁん」
「ん、そろそろ行こっか」
「うん!」


二人そろって家を出る。
一緒に行くのは初めてだから、なんか違和感。

鍵をしめて平助の横に並ぶ。

不意に、平助に手をつながれる。
途端に温かくなる、俺の右手。


「ちょっ…平助!//」
「人いないから平気だよ」


俺が平気じゃないんだこのやろう。
そう怒鳴ってやりたい。

でもなんか調子に乗りそうだから、それは言えない。


「…ッ馬鹿!//」


横で平助が笑う。

でも、なぜかそれからは静かになって。
二人で黙って、通学路を歩いた。

学校が見えた時。
やっと手が解放されて。

平助の方を見ると、寂しそうな顔で笑ってて。
俺は何も、言えなくて。

つながれて熱くなった手は
しばらく冷めてはくれなかった。


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