君と僕との物語
□第三話
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暗闇の中。
どこかから声が聞こえる。
遠いような、近いような場所から。
俺を呼んでる。
ほら、また。
これは、誰の声?
優しい…心地いい音色。
ふと、一人の男が近づいてくることに気付く。
制服姿のよく見知った顔。
その男は、俺に向かって優しく微笑んだ。
「へ、すけ…」
「…新八っつぁん?」
起きると、のぞき込んでいる平助と目が合った。
夢の中に現れたその男は、バッと音が出そうなほど素速く俺から離れた。
ってか今俺、こいつの名前呼んじゃったよね…。
平助の夢を見た恥ずかしさに加わり、昼のことを思い出して顔が熱くなる。
隠すために布団に隠れてみたけど、多分もうバレた。
だって平助が笑ってるから。
「新八っつぁん、出てきてよ」
「やだ…」
「出てこないと襲っちゃうよ」
「…え!?」
思わず驚いて、急いで布団から顔を出す。
見えたのは、悪戯っ子みたいな笑顔。
いつもと同じ、笑顔。
「冗談だよ」
「ッ…馬鹿!!//」
いろんな恥ずかしさが混ざってわけがわからなくなる。
とりあえず顔が熱い。
多分今、顔赤いだろうな。
ってか馬鹿とか言っちゃって平気だったかな…。
「新八っつぁん」
「…何」
「今までどおりでいいから」
また、あの笑顔。
屋上の時と同じ、優しい笑顔。
「関係変えたくて言ったんじゃないんだ。ただ俺が、けじめつけたかっただけ」
「けじめ…」
「友達でいいから」
昼のことは気にするな、と言いたいらしい。
あぁ多分、五・六時間目ずっと考えてたんだろうな。
考えて、俺のために優しい言葉くれてるんだ。
「ぱっつぁんのことだからまた色々考えてるんだろうなって思ってさ」
「平助だって」
「へ?」
まっすぐ、平助を見る。
どんな顔していいかわかんないから、睨むみたいになったけど。
それでも、平助も俺を見てくれるから、睨むのはやめなかった。
「授業中、ずっと考えてたでしょ」
「左之?」
「…うん」
少しだけ、俺の勘も入ってるけど。
でも、恥ずかしそうに頬を掻いてるから。
多分当たり、かな。
平助が小さく、ため息を吐いた。
「考えたよ。けど、今言ったのは本当」
「何、考えてたの?」
「オトす方法」
「…は?」
先程友達でいい、と言ったはずが…今度は、オトす?
耳を疑いたくなったけど、平助はにこやかに笑って。
もう一度、同じ言葉を発した。
「新八っつぁんをオトす方法、だよ」
「あの、平助くん?何言って…」
「新八っつぁんは今のままでいいんだよ。でも俺、諦めたわけじゃないし」
平助の身体が近付いてくる。
どうしていいかわからなくて、目を逸らす。
ていうか、諦めてない?
それはつまり…。
「これからいっぱいアタックするから、覚悟しててね」
頭をぽんぽんと軽く叩いて、平助がそう言う。
えーと。
…波乱の予感?
ていうか平助、さっきから笑顔だけど。
一応俺、平助のこと振ったんだよね。
「平助…」
「ん?」
「つらく、ない?」
「あー…ぱっつぁんが遠くなる方がつらい、かな」
「…そ、か」
「うん」
何となく、また平助を見上げる。
平助はきょとんと首を傾げて、俺を見る。
何でもないという意味を込めて、首を横に振る。
そのまま、平助を見れずに俯いた。
微かに、平助が笑う気配がする。
「帰ろっか、新八っつぁん」
「…うん」
ベッドから起き上がって、平助の前に立つ。
また平助と目が合って、恥ずかしくて目を逸らす。
かわいい、と言って笑う平助にムカついて。
とりあえず蹴りをくらわせて。
明日からどう過ごそうか考えながら、帰路についた。