君と僕との物語

□第二話
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教室に一緒に戻るのは気まずくて、
平助には頭が痛いからと言って先に教室に戻ってもらった。

今日は先生がいないから、勝手に入ってベッドに寝転がる。
一人ため息を吐いて、さっきのことを思い返す。

正直、平助の言葉には驚いた。
もちろん行動にも。

だって、あんな…。


平助は、竹刀を手にした時はいつも、真剣な表情になる。

でも普段は、ずっと笑顔で。
ふざけてばっかで、みんなを笑わせて。

その、いつもへらへら笑ってる平助が。
あんな真剣な眼を、するなんて。

抱きしめられた時。

頭一つ分大きい平助の身体。
小さく、本当に小さく、震えてた。

それに。

平助はいつも、自信満々で。
あんな不安げに揺れる平助の瞳、初めて見た。

何より、
“嬉しいよ”
そう言った後の、平助の笑顔。
さっきから頭を離れてくれない。

いつものへらっとした笑い方じゃなくて。

悪戯っ子みたいな笑い方でもなくて。

今まで見たことない、優しい笑顔。


「俺、平助のことわかってなかったのかな…」


わかったつもりでいた。
親友だと思ってた。

でもこんなに、知らない平助がいる。

悲しいような、苦しいような、寂しいような。
そんな感情を振り払うかのように、首を横に振り布団の中へ潜り込んだ。

一度ギュッと瞑った瞼を、ゆっくり開けてみる。
そこには真っ白な世界。
目の前のシーツの色。

平助に抱きしめられた時
視界いっぱいに広がった、ワイシャツの色。

そう考えたら何故か
顔が熱くなった気がした。


「何やってんだろ俺」


自分自身に呆れてため息を吐く。

しばらく平助のことばかり考えてたら
保健室のドアが開く音がした。

先生かな?
それとも、昼に屋上で話した…

先程より勢いよく首を横に振る。

そんなことはない。
平助はたとえ眠くても授業が嫌でも、サボりはせずに出席して自分の席で堂々と寝る。

となると普通のケガ人か病人かな?

その考えに辿り着いた時。
新八が寝ているベッドのカーテンが開けられた。


「左之?」
「よぉ新八!頭大丈夫か?」
「人を馬鹿みたいに言わないでくれる?」
「あ?新八馬鹿だったのか?」
「…頭痛ならもー平気だよ」


よかったな、と背中を叩かれる。

授業はどうしたのか聞いたら
いつの間にか休み時間に入ってたらしい。

チャイムなったはずなのに、全然気付かなかった。


「にしてもよぉ…平助と何かあったか?」
「…は?何で」
「何かあいつ昼から元気ねーんだよ。新八具合悪いから見に行けっつって、自分は行かないとか言い出しやがって」
「ふぅん…」


多分平助のことだから。
俺がアイツから逃げたこと、気付いてるんだろうな。

そう考えたら俺、結構ヒドいことした?


「でも放課後は迎えに来ると思うぜ」
「あ…うん、わかった」
「じゃあ俺そろそろ戻るわ」
「うん」


左之がカーテンに手をかける。
閉め切る前に一度左之、と声をかけた。


「あん?」
「ありがと」
「…おぅ」


ニッと笑って、仕切りを閉めて出口へ向かう。

左之は何も言わない。
何も聞かない。
黙って、ただ傍にいてくれる。

どうしようもないほど馬鹿なのに、そういうところはよく気がまわる。
俺も、平助も、左之の優しさにいつも助けられてる。

左之は、ドアを開けて一言
「頑張れよ」と言って出ていった。

俺、友達見る目あるよなぁ。
そう思い一人で笑う。

目を閉じて、昼のことを思い出す。

アイツ、真剣な眼してた。
いっぱい考えて悩んで打ち明けてくれたんだと思う。
俺も平助避けないで、ちゃんと考えなきゃなぁ。

平助のことを考えるうちに、いつの間にか、意識を手放していた。


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