君と僕との物語

□第一話
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物語は、突然に。

「新八っつぁん、好き」
「…え?」

そして静かに、始まりを告げた。


君と僕との物語


壬生という名の男子校に通い始めて二年と少し。

いつもと変わりのない昼休み。
いつもと同じように、平助と屋上で弁当を食べた後。
いつもとは、違うことが起こった。


「平助?いきなり何…」
「好き」


もう一度、先程の言葉が繰り返される。

好き?でも俺は男。
平助も男。

ってことは、友情の好き…だよね。


「あー…うん。俺も好きだよ?」
「違うよ」
「違うって…」


何が?という言葉は、平助に強く抱かれ消されてしまった。

目の前に広がる白。
平助のワイシャツの、色。


「へー、すけ…?」


わけがわからないと、平助を見上げ、眼で訴える。

捉えた平助の表情は、真剣で。
見たことのないその表情に、少し驚き肩を揺らしてしまう。


「恋愛対象の、好き…だよ」


そう言う声も、聞いたことがないほど真剣で。
何より、聞かされた言葉に驚いて。

俺の返答する声も自然と小さく、掠れてしまう。


「俺…男だよ?」
「知ってる」
「本気?」
「当たり前」


そう言ってさらに強く抱きしめられる。

平助の鼓動と自分のそれが重なる。
少しだけ、速い心音。

何て返答していいかわからなくて。
くっついた身体を意識してしまって。

言葉が、見つからなくなる。

不意に、抱きしめていた腕を放される。
同時に身体も少し離され、寂しそうに微笑う平助が目に映る。


「嫌いになったなら、そう言って?」
「…え?」
「男から告白されるなんて、気持ち悪いでしょ」


何て言った?
俺が平助を、嫌い?気持ち悪い?


「そんなこと、ない!」


違う。
何て言っていいかわからなかっただけ。

嫌いなんかじゃない。

気持ち悪くなんてない。


「でも…」


そう呟いて平助は不安そうに俺を見る。

このままじゃ誤解される。
平助を傷付ける。

一生懸命、言葉を探す。


「平助、好きだよ?でも、恋愛感情とか…よく、わかんない」
「そ、か…」
「…ごめん」
「ううん!…返事くれないのも覚悟してたから、嬉しいよ」


ありがとう、と呟き、優しく微笑まれる。
顔が熱く火照る。

なぜか直視できなくて、平助から目を逸らす。


「よし、やっとスッキリしたー!」


当の本人は気付いた様子もなく、大きく伸びをして大きな声を出す。
ビックリして平助を見たら、視線に気付いたのか平助もこっちを向く。


「ずっと言うの我慢してたからさ、つらくて。…言えてよかった」


いつもの笑顔。

きっと傷付いたの、隠してる。
俺を傷付けないために。

いつから、平助は俺を好きでいてくれたんだろう。

今まで何度も、つらいの隠してくれてたのかな。


「さて、弁当も食べたし、教室戻ろっか」


いつもの声でそう言い、平助はドアの方へ向かう。

ねぇ、我慢してるの?平助。
本当は今、どんな気持ちでいるの?


「…うん」


少し遅れて返事をして、
俺もドアの方へと歩き始めた。


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