短編小説

□First love
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初めて逢ったのは、オレがまだ幼稚園児のとき。
隣に引っ越して来たアイツの親が、うちに挨拶に来たとき。

アイツはあの頃、すごく甘えん坊で、人見知りをして。
親の陰に隠れながら、オレの方をちらちらと見ていた。











First love















「平助、ちょっと新八クンに遊んでてもらいなさい」
「ぇ…あ、」



『平助』と呼ばれたソイツは
親に背中を押されて、オレの前へと差し出された。

親たちはオレと平助を置いて、リビングで話に花を咲かせ始めた。





「ぇ、と…」



何故か不自然なくらいおどおどしていて、
オレがそう呟いただけでビクッと肩を揺らした。





「…名前」
「えっ…?」
「名前、平助っていうの?」
「…うん」




戸惑いがちに小さく頷いて、
ようやく目線をこっちに向けた。





「オレ、永倉新八っていうんだ。よろしくネ」



そう言うと、
何故か一瞬驚いたような表情をして。


それから初めて、オレに笑顔を見せた。








平助は何故かオレに懐いてしまったようで、
それからは何をするときも、ずっと一緒についてくるようになった。





「新八っつぁん、新八っつぁん!」
「なに、平助?」
「これあげる!」




拳を握ったまま、オレの目の前へ差し出す。
どうやら、拳の中にあるものをやるから手を出せ、ということらしい。

オレは、平助の手にあるものが何かわからず、平助の方を見た。





「…ぇ、なに…?」
「いーから、早く!」
「…?」





何が何だかわからないまま、
平助の手の下に、自分の手のひらを出した。




自分の手のひらに、小さな何かが落とされる感覚がした。







「これもってたら、幸せになれるんだよね。新八っつぁんにあげる!」
「ぁ…」




手のひらに置かれたのは、
小さな小さな、四葉のクローバー。

それから、ピンク色をしたコスモスだった。




「そのコスモス、クローバーのとなりにあったんだ。
一本だけでかわいそうだったから、ぱっつぁんが持っててあげて?」
「うん…でも、いいの?せっかく平助が見つけたのに」
「うん、いいの!」




そう元気に返事をして、平助は嬉しそうに笑った。

すぐに枯らすのはイヤだったから、
オレは押し花にして、ずっととっておこうって思ったんだ。



押し花にしたら、ずっとずっと、花が咲いてるよって
母さんが教えてくれたから。

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