佐伯

□キミは魔法使い
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「あーーーーーー!」

朝起きて、キッチンに入るなり、私は叫んだ。

「どうしたの?ハニー?」

一緒に起きてきた佐伯さんが不思議そうに覗き込んだ。

「ご飯、炊き忘れちゃった…。どうしよう、パンの買い置きもないし…」

昨夜、お米を洗って炊飯器に入れたのはいいけれど、タイマーをセットしておくのを忘れてしまった。

「あ、そうだ、ホットケーキでもいいですか?」
「いいけど…ホットケーキミックスなんて家にあった?」

私の提案に、佐伯さんはきょとんとしている。

「そんなの使わなくても、家にあるもので簡単にできるんですよ」

私は言いながら、材料を用意し、秤に載せたボールに計量しながら配合していく。
粉類を泡だて器で混ぜてだまにならないようにほぐし、卵と牛乳、それからバニラエッセンスを加えて更に混ぜる。
その生地をフライパンに流し、両面をきつね色に焼けばホットケーキの出来上がり。
部屋中に甘い香りが広がる。

「すごい、本当に出来ちゃったんだ」

佐伯さんはそう言いながら、二段に重ねたホットケーキにナイフを入れて一口大に切ると口に入れた。

「……」
「…どうですか?」
「うまいっ!ふわっふわ!俺ね、実はホットケーキ大好物なんだ!」

佐伯さんは目を輝かせて次の一口を切り始めた。

(口に合ってよかったぁ)

「それにしても」

佐伯さんが呟く。

「コーヒーといい、グラタンといい、ホットケーキといい…どうして俺の好きなものをおいしく作れちゃうのかなぁ、ハニーは。なんだか魔法使いみたい」
「ふふ、そうですか?」
「やっぱり俺、ハニーがいないと生きていけないよ」

(ちょ、朝から破壊力抜群なんですけど、そのセリフ…)

私は赤くなった頬を見られないように、俯いて熱いコーヒーに息を吹きかける振りをした。
幸せの香りに包まれながら…。


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