□なんで、どうして
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なんであいつばかり、と疑問を抱くことはいけないことなのか。
他の誰でもなく、どうしてあいつばかり。

それを考えると思考はもう堂々巡りで終わりが見えないことをバクラは今までの経験から知っている。何度も同じことを考えてはずっと思考の海に沈むのだ。
だからバクラは出来うる限り『器』のことは考えないようにしていた。

器。武藤遊戯。

もちろん彼が器でなくてはいけなかった理由など、バクラ自身十二分にわかっている。
今まで彼と関わってきて、恐らく誰よりも理解していると自負している。

誰かの心を受け入れて、何があっても折れない柔軟な強さ。

武藤遊戯の力の本質は『許容』であり、彼の許容は決して他の誰かにまねできるものではない。
憎しみを抱かず、ただ相手を許すことしか知らない無垢な魂。

それでもバクラは思わずにはいられない。
どうして、よりによってあいつなんだと。

なんで、どうして、なんて下らない言葉だ。
「他の奴らだったら不思議じゃないのに、どうしてあいつが。あいつはなんの罪もないのに」
そんなこと言う奴がいたらバクラは容赦なくそいつを殴るなり刺すなりしているだろう。
罪とかそんな理由はない。運命に理由なんてないのだ。正義、神、運命、そんなのはいつだって人を踏み躙るだけ。助けてはくれない。だから疑問に思うなんてバカバカしいことだ。それを理解してない奴らは平和に身を任せているボケた奴らだ。
そしてそんなこと言う奴らばかりだから『器』は遊戯以外に考えられなかった。

運命を呪わない、たった一つの穢れない子供。しかしその光は幼い故ではない。

なんでだとかどうしてだとか、絶対に言いたくない言葉だ。そんな言葉は愚かなものでしかなくて、他の誰がどうなっても自分だけは平和でいられるのだと妄信した奴らの言葉だ。
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