□泣いても良かったのに
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アキレスを復元して、バンはとても喜んでいた。

一般販売をして広まって、みながかつてバンが使っていた機体のことを知ってくれれば良いと思った。
バンの一番最初の愛機アキレス。財前総理を救い、アングラビシダスを優勝し、アルテミスを勝ち上がった機体。英雄と呼ぶに相応しい功績を残した機体。
そう、みなが知れば良いと思った。途中で壊れたとは言え彼は身を挺して世界の平和を守ったのだから。
一般的に使用できれば、きっと人気が出るだろう。いろんな人がアキレスを使うことを、きっとバン達も喜んでくれると思ったんだ。

しかし、今になって何故そんなことをしたのかと後悔している。

何故よりによってアキレスをモデルにLBXを作ってしまったのだろうか。
俺がこんなことをしなければ、と思わずにはいられない。

いっそバンが怒るなり泣くなりしたのだったら俺はここまで後悔しなかっただろう。
バンは泣かなかった。まっすぐに前を向いていた。

愛したLBX達の反逆。共に戦った仲間であり親友であるカズとアミは攫われた。ずっと使い続けていたオーディーンを壊された。それもかつて使っていたアキレスを模したLBXに。

あぁ、何故バンは泣かないのだろうか。
よりによってアキレスに壊されたのだ。
アキレスもオーディーンも、バンにとっては父親との絆であり大切な存在だったろうに。
バンからすればアキレスと戦うことすら辛いことだったろうに、そのアキレスにオーディーンを壊されたことはバンにとってはどれだけの傷だったのだろうか。
それなのに時間はバンを休ませはしなかった。
新しくLBXを渡されて戦いに行って、シーカーをまた作り上げて。

「拓也さん、オーディーンをお願いします」

彼は泣いていなかった。
ぼろぼろに壊れたオーディーンを祈るように握って、それを渡して彼は新たなLBX、エルシオンを持って戦いに出た。
休む間もなく泣きもせず、彼は前を向くばかり。

何故アキレスを模して作ってしまったのだろうか。
喜ばせるどころか辛い思いをさせてばかりだと言うのに。

いっそ泣いてくれれば良い。そうすれば俺も慰めることが出来た。それなのに俺はなにもできないのだ。
バンは泣かない。泣くそぶりも見せない。
なぁ、バン、泣いてはくれないか。
ほんの少しでも良いから、お前が抱えたその痛みを表に出してはくれないのか。


泣く権利があると言うのに、俺の心が追いつくよりも先に彼は戦う決意をしてしまったのだ。
 

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