□孤独はもう嫌だから
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「ひとりにしないで」

そう呟く言葉は酷く儚げで、歳は同じくらいだろうにとても小さく思えた。
だからかもしれない。あれからずっと白い病室にバンは通っている。
「ユウヤ」
その声に灰原ユウヤが顔を上げる。
バンは手を差し伸べた。
「外に行こうか」
一人にしないよ。言うのは簡単だけれど、それを信じてくれるまでは時間がかかるだろう。だからバンはこれからもずっとその小さな背中に手を差し伸べる。
いつかバンを、孤独ではないんだと信じてくれるその日までバンはその行為を続けるのだ。

ユウヤがバンの手に自分のそれを重ねる。行き先は屋上だ。外と言ってもまだ万全ではないユウヤを病院の外に連れ出すことはできない。
ユウヤの手を引いてバンは歩き出す。エレベーターではなく、階段でゆっくりと屋上を目指した。

「ユウヤ、どうしたの?」
屋上の扉を開くと心地よい風が全身を撫でた。
気持ちよさそうに目を細めたバンは隣に立つユウヤに視線をやり、ぎょっとする。
「泣いてるの?」
握った手はそのままにぐずるユウヤは、ただバンの手の温もりに縋るように握る力を強くする。
「どうしたんだよ」
困ってしまった。ユウヤが泣いている理由がわからない。
ユウヤはただ泣きじゃくる。音はなく、嗚咽もなく、ただ滲み出る涙を手で拭っていた。
「……一人、に、しないで…」
「一人にしないさ」
もしかして、今ユウヤが縋れるのはバンだけなのかもしれない。実際にユウヤを入院させたのはバンの好敵手でもあるジンであり、恐らくユウヤが一番心を開きやすい相手なのではないだろうか。とバンは思っていた。
それでもジンは忙しい身だ。代わりのようにバンが様子を見に来ていたのだが、
「一人にしない。絶対だ」
もしかしたら、ユウヤが今必要としているのはユウヤに対して理解のある人物ではなく、ただ傍にいて温もりを与えてくれる人物なのかもしれない。
そんな難しいこと中学生のバンにはまだよくわからないけど、それでも
「ユウヤ!」
バンは一際大きな声でユウヤを呼び、笑顔を作った。
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