□いつか見た未来なんて知らない
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だんっと壁に叩き付けられてバンは急き込んだ。バン君!とジンが大声で呼んでいるのが聞こえたが、朦朧とする頭ではその声が酷く遠くから発せられているような気がする。同じ部屋にいると言うのにおかしな話しだ。
痛む背中はきっと痣ができているのだろう。バンが顔を上げると、上司である男性が立っていた。
「何故言われた通りにしなかった」
「…………」
「答えろ、バン」
気安く呼ぶな。と思ったがバンはそれを言わなかった。それ以外の呼び名を持っていないのだから、どんな人から気安く呼ばれても文句は言えない。
「……なんとなく」
ぼそりと呟くと男の足がバンを蹴った。
「やめろ!」
男性のSPとして雇われている若い男性がジンの腕を掴んでいた。ジンは声を上げることしかできない。悔しそうな彼を安心させたくて、バンは口を拭って顔を上げる。
「命令違反したことはわかっているな」
「…………」
「LBXをわざと逃がすなんて許されない行為だとわかっているのか」
そう。今日の襲撃でバンは一体のLBXをわざと逃がした。真っ赤な身体をした、とても素早いLBX。今日、バンは新しいLBXエルシオンを使ったが反応が鈍いことに気付いてオーディーンも突撃した。
そして赤いLBXとオーディーンが戦ったのだ。ジンやユウヤの協力もあって敵を追い詰めることはできたけれど、バンは咄嗟にそのLBXを傷つけてはいけないと思ったのだ。
だから逃がした。敵を見逃したのだ。殲滅しろと命令されていたのに。
「敵にどんな情報を持って行かれたかわからないんだぞ…!」
男は何度もバンを蹴り飛ばす。バンはただ耐えた。この建物の中でLBXは使えない。特殊な電磁波が発生しているからと言っていた気がする。だからバンはこの中じゃただの無力な子供なのだ。
LBXを持たされて戦場に放り出されるのに、そしていつもちゃんと生きて帰って来るのに、強いはずなのになんと無力なことだろうか。
バン達の反乱を恐れてたLBXは使えないし外には出させてもらえない。
突然ぎゅっと抱き締められてバンは固く閉じていた目を開けた。
「…ユウヤ!?」
「邪魔をする気か!」
蹴り飛ばされているバンを庇うようにユウヤはバンを抱き締める。蹴られながらユウヤはバンに笑って見せた。
(………ああ……)
夢の中で金髪の男性は言っていた。「未来のためだ」と。
これがあの男性が望んでいた未来なのか。いったい誰の未来のためなのか。わからない。わからないんだ。
(あの人が望んでいた世界は……)
唐突にバンはそんなことを思った。未来のためならどんなことをしても良いのか。バンに暴力を奮って、ジンが酷く痛そうな顔をしていて、ユウヤがバンを庇って暴力を受ける。そんな未来のために?
それとも、バン達に守られているくせにバン達を支配する大人達の未来のために?
(…こんな世界にしたくなかったから、戦っていたんじゃなかったの……?)
ユウヤが小さく呻いたが、声を出さないように唇を噛み痛みに耐えていた。バンはそんなユウヤの背中に腕を回す。ユウヤの背中は何度も蹴られて、バンの腕も蹴られたけれど構わなかった。
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