□知らない過去を捨てて行く
1ページ/4ページ

解散してしまったはずのシーカー本部の前にバンは今立っていた。
ごくりと喉を鳴らし、恐る恐る扉に手をかける。
「……っ!」
ディスプレイの明かりが暗い部屋をぼんやりと照らす。そして、バンは息を飲んだ。
「……な、にして…」
しかし部屋の惨状に驚いてはいけない。これは確かに予想していたものだったからだ。
暗い部屋に倒れた数々の人影。目を凝らせばそれがバンの幼馴染の少女だったり、親友だったり、仲間だったり、かつて敵だった存在であることがわかった。
そして、その場で唯一立っている人物が、ぼんやりとした明かりに暗く照らされながらこちらを振り向く。
「遅かったな、バン」
「なにしているんですか、拓也さん…!」
背後でばたばたと荒い足音がする。今の拓也から目を放すことが危険なような気がしてバンは振り向かない。
拓也がいつものように笑った。
「バンくん!」
「ジン」
「ジンも遅いじゃないか。約束の時間は過ぎているぞ?」
「……ユウヤ…!」
ジンが後ろで驚いたように部屋の中で倒れているものの内一人の名前を呼んだ。
「アミ達になにをしたんですか」
「今は眠っていてもらっているだけだ」
バンはぐっと力を込めて拓也を睨む。ジンがバンを庇うように一歩前へ出た。
「灰原ユウヤはまだ安静が必要だ。病院から連れ出してなにをするつもりだ?」
「これはな、未来のためなんだ」
正気ではないな。とジンは結論を出す。視線を虚空に向けながら盲信したように答える拓也は明らかに正常ではなかった。
「あなたが最近になって突然クローンの研究に乗り出していることは知っている。今日僕らをここに呼び出したのも、それに関わりがあることなんだろう」
「……それで二人は遅かったのか」
「ジンに言われたんだ。行くなって。でも、まだ俺達に危害を加えるって確信になるものはなかったから、アミ達には言えなかった。俺はみんなを見捨てることはできないから来た」
「だが今の状況を見ると…。僕らを実験体にでもするつもりなんだろう」
突然拓也が笑い出した。バンとジンは咄嗟にCCMを構える。
「そう警戒するな。二人ともこちらへ来い」
「どうしてアミ達を…!なにが未来のためだ!未来のためを思うなら、アミ達に危害を与えないべきでしょ。そうだよね、拓也さん!」
「うるさい!そんな近未来の話じゃないんだ…!」
苦しそうに言う拓也の姿にバンとジンが顔を見合わせてそっと部屋に入って来た。とにかく本部に入らなければ倒れているものたちを起こすこともできないのだから。
「そうだ、未来のためなんだ……!」
入って来たジンとバンを拓也は抑え込んだ。
「放してよ、拓也さん!どうしちゃったんだよ!?」
もがくバンを横目に見ながら拓也はCCMを動かすジンを見た。
「無駄だ。ここには特殊な磁場を発生させてある。LBXは起動しない」
「くっ……!」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ