□ハッピーバレンタイン
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放課後。アミは友チョコの交換をするそうだ。カズは女子達に追いかけられるので逃げ出した。
バンはスラムにいる。正直ただの学校裏をスラムと呼ぶのはどうかと常々思っているのだが、とにかくバンはスラムにいるのだ。
「あ、リコ」
「うん?バンじゃないか。どうした?」
「うん、郷田いる?」
「リーダーならゲーセンに行ったぞ。ギンジ達見なかったか?」
「見てないよ、ごめん。アジトは見たの?」
「これから」
「そっか。じゃぁ、俺そろそろ行くな」
「おう。あ、バン!」
「なに?」
踵を返そうとしたところで渡されたのは手のひらに収まる小さな箱。
「バレンタインだからな!」
「ありがと!」
今度こそ歩き出してバンはスラムを出た。


そうして商店街まで向かうと、とりあえず目に入ったのはキタジマ模型店だった。
窓を拭いていた金髪の女性が振り向く。
「あら、バンじゃない」
「沙希さん、こんにちは」
「その紙袋。さては女の子にもらったなぁ?」
「ち、違うよ!」
顔を赤らめながらバンは否定する。くっくっと笑いながら沙希は拳を突き出した。
「な、なに?」
「ほら、良いから手ぇ出して」
手を出すと渡されたのはチロルチョコ。
「お客さんに配ってんの。バンはうちを贔屓してくれるからね」
「ありがとう、沙希さん!」

沙希と別れてから、遠回りとはわかっていたが気が向いたのでケーキ屋さんの前を通る。
「こんにちは、バンくん」
「こんにちは」
「買ってく?バレンタイン限定なんだけど」
「良いよ!俺、男だし」
当然のようにケーキ屋の店員とも顔見知りだ。
「関係ないわよ、ラスイチ。どう?」
「…………」
バンは暫くケーキ屋の前に立ち止まった。


結局ケーキの箱を持っていることを考えればあの店員は結構な商売上手だとバンは思うわけだ。
階段を上りゲーセンの入り口に行くと見慣れた背中を見つけた。
「ミカ!」
黒いツインテールの少女が振り向く。
「なにしてるんだ?」
「…郷田さん、待ってる」
「バレンタイン?」
「そう。待ってるの、楽しいから」
出待ちが楽しいと言うのもよく理解できるものではなかったが、バンは頷いておいた。
「じゃぁ、中にいるんだ。俺行くな」
「…バンにも、あげる」
「お、ありがとう」
「義理。本命は、郷田さん」
「知ってる。でも友チョコって言ってくれても良いじゃないか」
「じゃぁ友チョコ」
「ありがと」
笑ってバンはゲームセンターに入った。


「行っけぇええええええ、ハカイオー絶斗!」
「迎え撃て、ナイトメア!」
「仙道もいるのか」
ずいぶんわかりやすい掛け声である。
「郷田、仙道!」
「お、バンじゃねぇか」
「なにしてんだ、山野バン」
「二人に用があったんだ」
バトルを中断した二人に紙袋からチョコレートを取り出す。
「はい、ハッピーバレンタイン」
「…!?」
「ふ、ふん。貰ってやらないこともないよ」
「あ、ありがとうよ、バン」
「うん。俺まだ用事あるから、じゃぁね!郷田、早く外出てあげてよ、ミカが待ってるから」
嵐のように通り過ぎたバンを二人は無言で見送った。
「………俺が本命だろ」
「寝言は寝て言うもんだよ」
「なんだと、ていうか気に入らないんだよ。俺より先に受け取りやがって!ハカイオー!」
「それだけで文句言うなんて、心が狭いねぇ。ナイトメア!」
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