企画物

□世界を終わらせたかったのは誰か
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「…おい」
キリトが声をかけて来るがもう足を止める気はなかった。これ以上追い駆けて来るようならDr.マミーの研究室にでも逃げ込もう。そう思った矢先に思い出すように振り返る。

「俺と戦いたいなら、まずは他の誰かに負けない程度には強くなれば」

それは嘲笑など一切含まれていない言葉で、だからこそ真意が読めずにキリトが眉を寄せる。
「なんの話しだい」
「キラードロイドは常に俺達の監視下にある。灰原ユウヤに負けたんだろ」
「………Dエッグが展開されていた。戦いの内容がわかるはずない」
「壊れたブルドと片腕を失ったリュウビを見ればどっちが勝者か一目瞭然だ」
「…………」
「何故負けたかを考えろ。キラードロイドのデータを取るためだけに食い潰されたくはないだろう?」
そこでようやくレックスは軽薄に笑った。キリトがなにも言わないのを見て今度こそ背を向ける。

「……いいこと教えてやるよ、レックス」

背中からかかる言葉を聞いてやる義理はあるのかレックスは一応足を止めた。
「あんたが死んだと言っていた山野バン、生きているらしいぞ」
レックスがばっと振り向いた。包帯の隙間から見える目がキリトを睨む。
「どういうことだ。誰だ、そんなこと言ったのは」
「海道ジン。知っているだろう、アルテミスファイナリストだ」
「…………そいつが生きていると言ったのか?」
それは素直に驚いている声だった。まるでなにを言っているかわからないと呟く声色に戸惑うのはキリトだ。レックスがこんなに感情を出すのを見るのは初めてだった。
「一生辿り着けないと言われた」
「……生きているとはっきり言ったわけではないんだな?」
「ああ。でも居場所を知っているふうだったぞ」
「…………ものは言い様だな。そうだな、そいつの言う通りだ。確かにお前は山野バンには辿り着けない」
だって死んでいるんだから。
そう言ってレックスは歩き出した。キリトがなにか言っていたが無視をする。


一日に二度も研究室に入るのは珍しいなとDr.マミーは訪れたレックスを見て思う。
「Dr.マミー」
「…なんだ……?」
レックスはそっと椅子に座る男の首に腕を回した。
「ジンが……、山野バンは死んだって言わないんだって」
「そうか……」
「山野バンは死んだ。俺が殺した」
「……ああ…」
「でも、ジンは絶対に言わないんだ。生きていないとわかっていて、でも死んでいないと思いたくて」
「……ああ」
「なんでかなぁ……」
レックスがこてりとDr.マミーに頭を預けた。
「……涙が止まらないんだ」
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