企画物

□世界を終わらせたかったのは誰か
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何時間睡眠を取っただろうか。自然に目覚めた身体はもう眠気を訴えることはしない。ベッドから出ようとして痛みが走り思わず一瞬動きを止める。
身体の節々が痛い。指を曲げるだけでも皮膚が攣る感覚がする。全身を覆う包帯の下にある火傷は一年経った今でも完治していない。鏡を見れば身体と同じく包帯に守られた顔。少年は自分の首に着いた金色に輝く輪を見てうっそりと笑う。微笑むだけで火傷をしている顔が痛んだが無視した。包帯の下の傷が膿んでいないか確認してから黒いパーカーを被り部屋を出る。
膝を曲げるだけで身体が痛む。歩けるだけましなのだと思うことで痛みを耐えた。
すれ違う人が自分を遠巻きにしていることに気付かないふりをして廊下を歩く。背中に書かれた『LEX』の文字を見てこそこそと何人かが会話していたが興味なんてなかった。時々聞こえる「あれがレックスか」「あんな子供が」と言う言葉に人知れず微笑む。
レックスと呼ばれた少年は一つの扉の前で足を止めた。
「Dr.マミー」
ボタンを押して扉を開けばそこは薄暗い部屋だ。いくつもある液晶画面が唯一の光源で、相変わらず目に悪そうな部屋だとどうでもいいことを考える。
「………なんだ」
酷く掠れた声が返って来る。同じように包帯で全身を覆われた男が一際大きな液晶の前で座っていた。
「もうちょっと慎重に行動すべきだよ」
「何故?」
「あなたの監視を強化するとアラン・ウォーゼンが言っていた。ちょっと気を緩め過ぎじゃない?」
「キラードロイドのデータをもっと収集すべきだ」
「だからって行動に制限を付けられるのも面倒だ。好き勝手したいならもっとうまくやらないと」
Dr.マミーと呼ばれた男が押し黙った。暫くして溜息を吐いたかと思うと椅子をくるりと回転させてレックスを振り返る。
「…………せっかくお前にやろうと思っていたものがあったのだがな…」
「なんの話し?」
「どうやらお前はいらないらしい…」
そう言ったDr.マミーの片手にあるものを見て包帯に覆われていない両目をレックスは大きく見開いた。
「それ!?」
「残念だ。廃棄処分か…」
「待って待って!」
「いつからお前は俺に説教できる立場になったのか……」
「待ってって、ごめんなさい!頂戴!それ、俺にくれるんでしょ!?」
ぱたぱたと駆け寄って来たレックスはDr.マミーの手からそれを奪い取る。仕方なさそうに男が喉で笑う。
「どうしたんだよ、これ?」
「キラードロイドが持って帰って来た」
「ふぅん、よく粉々に壊されなかったね」
「動かなくなったものはもはや敵ではないと言うことだろう」
「それにしても…。持って帰って来るとか犬みたい。ちょっとデータ見直したら?」
「…そのつもりだ」
レックスは手の内にあるものを見て年相応に笑った。
「でもありがとう!」
「………直したら使えるだろう。後は勝手にしろ」
「うん!」
少年がこうやって笑うのを見たのはいつぶりだろうか、そう思いながらDr.マミーはレックスの頭を撫でた。
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