□君がいない世界は
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窓から差し込む日差しで目覚めて、ジンはぼんやりと時計を確認した。外から鳥の鳴き声が聞こえいるため静寂、と言うわけではなかったが、ジン以外誰もいない男子部屋は嫌に静かだ。
時計の針が十一時二分前を指していて、寝坊だと慌てて起き上がる。
隣にあるバンのベッドが不自然な程整っていて、ジンは思わず首を傾げた。
確かにバンは起き上がってから掛布団や枕を整えるが、ここまで几帳面に整えていただろうか。これではまるで…。
そこまで考えて時計の鐘が鳴る。はっとしてジンは自分の荷物を引っ掴み部屋を出た。

(今日はバン君とバトルの約束をしていると言うのに…!)
昨夜も普段通りに就寝したが、思った以上に疲れていたのかもしれない。疲労の原因であるディテクターを恨みながらジンはダックシャトルの廊下を足早に歩いた。
もしかしたらこの時間は昼食を取るために食堂にいるかもしれない。拓也と一緒に会議室の可能性もある。あまり期待せずにジンは訓練用の部屋に足を踏み入れた。
「あ!」
入ると同時に声が上がる。聞き覚えがあるものだった。大空ヒロだ。
彼はジンの姿を見るなりペルセウスの動きを止めてとてとてとこちらに寄って来る。それを見てジンは気味が悪くなった。かつてヒロがジンに楽しそうに話しかけて来ることがあっただろうか!
「おはようございます!」
「…………」
バンに向けるような輝く笑顔ではないが、微笑みながらヒロはジンにそう言った。たかが挨拶だ。ヒロがジンに言っているのでなければ、の話しだが。
ジンは不気味にすら感じて返事を返さない。
「ペルセウスの動き、見てもらってもいいですか?」
「………?」
その言葉にジンは眉を顰める。とにかく気味が悪い。ヒロがジンにLBXのことで頼みごとなど、たとえディテクターに世界征服されてもしないはずだ。これはジンの勝手な想像に過ぎないが。しかしここで無視するのも聞こえが悪いし、なによりバンに告げ口されてなにかを言われるのが嫌だった。頼みを無碍にするほどジンも冷血な人間ではない。
「ジンさん?」
「………構わない」
「はい!じゃあ、さっそく…」
「ただし、バン君との約束が先だ。昨日、バトルをする約束をした」
ジンの言葉にヒロがきょとんと瞬きをする。ますます気味が悪い。ジンが知っているヒロならばここで「バンさんとバトルするのは僕です!」とでも言いながら噛みついて来るはずなのに。
「……バン…、さん………?」
「そうだ」
ヒロはやはりきょとんとするばかりで、今度はジンが訝しげな顔をする番だった。
「……僕はバン君を探している。どこにいるか知っているか?」
「え?……えっと…」
「ヒロー!お昼だって…。あ!ジンもいる!」
ヒロが困ったように視線を彷徨わせているとランが部屋へ駈け込んで来た。
「ランさん!」
「ジェシカが昼ご飯作ったよ。みんなもう集まってるから速く行こう」
「はい。ジンさんも行きましょう」
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