□だからお前のことが気に入らない
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前も霞む程どしゃぶりの雨の中、ズボンの裾を濡らしながら郷田と仙道は並んで歩いていた。差している傘を互いにぶつけて牽制しながら二人はゲームセンターに向かう。
ゲームセンターに向かう途中で偶然会ってしまったのがいけなかった。喧嘩して、この雨の中でわざわざ取っ組み合うのもあほらしい。それならバトルで白黒つけようじゃねえか。と言う流れになった。当然のようにそういう流れになるのだ、文句は言わせない。
ミソラ二中の方面から直接ゲームセンターに向かったのならば絶対にミソラ一中の連中と鉢合わせになることはなかった。しかし郷田は今日駅にLBXカードを買いに行ったのだ。バンが最近集め出したと聞いたからなのだが、こいつと会うなら行くんじゃなかったと後悔する。
商店街に入って、仙道が足を止めた。
「どうした?」
「……おい、あれ…」
駅の方面から商店街に入るとケーキ屋のある方面だ。仙道がどしゃぶりの雨の中じっと目を凝らして前を見ている。郷田もそれと同じように目を凝らすと、数歩先に誰かが立っているのがわかった。影は傘を差していないように思えて、この雨の中バカじゃないのかと郷田は思う。仙道は厳しい表情のままだ。
「……あいつ…」
仙道が呟いて歩き出す。郷田は少しだけ行くのを躊躇う。人影があるのはブルーキャッツの近くだ。レックスのことを思い出してしまって、郷田はあまりここには近づかなくなっていた。
「おい、待てよ」
それでも仙道がずんずんと進んで短い距離を埋めるから、郷田は仕方なく歩き出した。
仙道が人影に手を伸ばして引き寄せるのが見えたが、雨音が酷くてなにを言っているのかわからなかった。もう少し近づかなければ。
「あ…」
聞き慣れた幼い声がした。
「バカかお前は!なにしてるんだい、こんなとこで!」
仙道が怒鳴っている。郷田は仙道の傘の中に引き寄せられた人物を見て郷田は目を見開く。
「バン!?」
水を滴らせながらバンがこちらを向いた。
「…郷田……」
いつもの様子を考えるとあまりにも覇気のない声だ。掴んだ腕が冷え切っていて仙道は眉を寄せる。いったいここにいつからいたのだろうか。
「……仙道…」
「休める場所行くぞ」
仙道が腕を握ったまま歩き出そうとすると、バンはその手を振り払った。そして郷田に駆け寄り、傘には入らずに目の前で足を止めた。意図が読めずに動けないでいる郷田に溜息を吐いて仙道はバンを傘に入れてやる。
「………いないんだ…」
「あ?」
「誰がだ?」
「ねぇ、郷田、いないよ…」
力なくバンは俯く。郷田と仙道は軽く顔を見合わせていると、バンが泣き叫ぶように言った。
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