□初めて見たもの
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さらさらと流れる黒い髪を縛っているのが珍しくて、ついついじっと見詰めていると見られている張本人である灰原ユウヤが苦笑する。
「なにかな?」
「あ!…い、いや、ごめん」
無意識だったのだろう、バンが慌てて謝る。
「…珍しいかな?」
「う、うん…。カズも髪を結んでいるし、アミも髪を伸ばしているけど、ユウヤくらい髪が長い人ってあんまりいなくて…。八神さんくらい?」
考えてみれば自分の周囲にいる人物で髪が長い人はあまりいない。
「カズもさ、触りたいって感じの髪じゃないんだよね。なんか髪型ここ一年で変になっちゃって……。あ!これカズには秘密だよ!」
しぃっと人差し指を立てるバンの姿が可愛らしくてユウヤは笑う。それを見てバンは一度瞬きしてからにっこりと笑った。
「………」
「ユウヤ?」
「…あ、いや…。……なんでもないんだ」
さすがに見惚れてしまったなんて恥ずかしくて言えない。少しだけ目を伏せて表情を隠した。
「あの…。僕の髪、いじる?」
「え?」
「いや、あの…。その、カズ君の髪が触りたいって感じじゃないって言ったから、僕のは触りたいのかなって……」
言ってて酷く恥ずかしくなってしまった。こういうとき自分の長い前髪にとても感謝してしまう。ただでさえ青白い肌が赤く染まるのは目立つのだ。前髪で隠せなかったらユウヤはここから逃げ出していただろう。
「……いいの?」
バンが少しだけ嬉しそうに頬を赤くして訪ねる。頼むからそんなかわいい顔をしないでくれと叫びそうになるのを必死で耐えて無言で頷く。
「やった!じゃ、俺結びたい!なぁ、解いていい?」
「もちろん」
バンが後ろに回るので表情は見えないだろう、ようやく安心して息を吐いた。これだけで照れていたらまたジン辺りにバカにされてしまいそうだ。
さらりと流れる感触にバンは目を細める。きらきらと光を反射してとても綺麗な髪だ。バンのふわふわとした髪とは違い、なんだか羨ましくなる。
「……綺麗だなぁ。気持ち良い」
「そ、そう……」
本当に表情が見られなくて良かったとユウヤは心から感謝する。たぶん今の自分は真っ赤だ。
「あ、櫛欲しいよな。えっと…」
「持ってるよ」
ポケットからプラスチック製の櫛を出すとバンは目を輝かせる。
「凄いな!こういうのちゃんと持てるのって偉いよ。母さんとかアミに言われるけど俺すぐになくしちゃって」
「女々しいって思わない?女の子なら持っててもおかしくないけど、僕男だし」
「そんなことない。身だしなみしっかりするのは良いことだよ。清潔感もあるしさ」
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