Be quiet!!!!

□お世話はじめました。
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「夢かとも思うたがな。」

「感覚はあるし痛みもあるしなぁ。」

「ふむふむ。」


大分慣れてきたので海を家に返して会議。

議題は勿論、そちらの世界への帰り方。


「では頬をつねっても帰れないと。」

「頬つねって帰れたらよかったんだがなぁ。」

「その程度では無理よ。」

「ふうむ。」


今日中はとにかく無理だろう。

しかし何かの拍子に帰ってしまうかもしれない。

日用品はどうしよう、買ってすぐに帰ってしまったらもったいないしなぁ。

ごはんは、まぁ、いいよ。帰るにしてもそんなときに帰らないだろうし。

服、かぁ。確かにこの格好で外に出すのは些か抵抗がある。

お布団はある、部屋もある。やっぱ服だよなー、食器に関しては両親のがあるからいいとしても。

うんうんと唸っているとかくりと吉継さんが首を傾げる。


「やれ、何を悩んでおる。」

「服・・・着物ですよ。どうしようかなぁ。」

「おい、会話が成り立っているようで成り立ってないぞ?」

「ああ、えっと。」


簡潔な返事をしすぎたせいで今度は官兵衛さんも首を傾げる。


「お二人の、です。」

「ああ、小生らは有名なんだったな。」

「よいよい、どの道外には出ぬわ。」

「ううん、でも吉継さんに関しては鎧着っぱなしってのもどうかと・・・。」


そうだ。それにずっとそれを着ていても、いつ帰るかも解らない。

もしかしたら一ヶ月・・・いや、それでも良い方か。一年間も服そのままならきついでしょうよ。

にしてもお二人の察しがいいおかげでとんとん拍子に話がすすむな。


「ふむ・・・。」

「やっぱり買いにいかないとかぁ。ううん、でも今日はもうこんな時間だし。」


外は暗い。なんだかんだでもう6時半だ。


「とりあえずじいちゃんが置いていった着流しがあったかな・・・。それを引っ張り出してこよう。」


うんうん、なんて一人で頷いてちょっと待っててくださいねー、なんてリビングを出た。


--


光が部屋を出ると随分と静かになる。

小生はそっとまた手を見た。

犬のときは紐だった。あの相棒は見当たらなかった。

鉄球はこちらには来ていないらしく、それには少し寂しさも覚えたがやはり清々した。


「やれ、暗。」

「・・・ん?」


しかしそれをつけた忌々しい奴がいるとなればどうしようもない嫌悪感に襲われることこの上ないが。


「光のことを、どう思う。」

「んー。」


急に真面目な声になるものだから、こちらもとにかく真面目に考える。

なかなか面倒見のいいやつだとは思う。犬猫だった小生らに対しても、人間の今に対しても。

けど。どこか発言がつながっていないというか。


「あれは、よく人の意思を汲み取れる奴じゃないと付き合いにくい人種だと思うぞ。」

「ほう。」

「自分の話にも自信がないんだろうな。ところどころこちらの反応に救われたような顔もしていたし。」

「ふむ、よく見ておるではないか。」

「うん?まぁ他に着眼点なんざなかっただろう。」

「まぁ共に湯浴みもした仲ゆえなァ。」

「根に持ってんのかいお前さん・・・。」


からかうような言葉にまさか、なんて。

いや、有り得ないな。根に持つのは有り得ても、その理由は有り得ない。

確かに考えの飛んだ面白い奴だとは思うが、それは湯浴みを羨ましがるような内容の気に入り方じゃないだろう。


「だがしかし光自身しか見ておらぬとはぬしは本当に頭が働くのか働かぬのか・・・。」

「なんだ、その顔は。」


残念なものを見るような視線が突き刺さる。


「まわりも、彼奴の持っていたものも着ていたものも、諸々に目を向けたりはせぬのか。」

「はぁ?」

「一見和に見えるこの部屋。しかし本物の畳ではないことであったり、着物に関してもそうよ。」

「・・・。」

「あれは南蛮の着物であろ。海もそうよ。それに持っていたものも。あの小型のからくりで海と話していたであろ。」


ああ、そうか。こんなに本人について考えるような場合じゃないのだ今は。

もっと他の着眼点があるだろう、たとえば着物が珍妙とか変なものを持っているとか。刑部はそのような答えを期待したらしい。

考えれば考えるほどおかしな話だが、そういえばそうだ。

小生は何を馬鹿正直に光の内の話をしていたのだろう。

いや、でも。


「ここが未来という話は聞いた。南蛮とも貿易していると考えれば当然のことではないのか?」

「ほう、そこまで考えが及んだか。」

「お前さん小生を馬鹿にしすぎだろう。」

「不幸な奴ゆえなァ。」

「関係ないだろうそこは。」


ヒヒッ、と笑ったそれがひどく納得いかない。


「それにしてもよ。何故われらにここまでしようとしてくれておるのか。」

「責任感じてるんじゃないか?第一発見者だしな。」

「ふむ。われなら捨て置くがな。」

「確かにあの時代じゃ厄介だろうよ。しかし光が言ってたようにここには戦はないのだろう?」


それに加えておそらく小生らをここに置く余裕が光にはあるんだろう。

そして困っている人には手を差し伸べるのが当たり前。

そのような育児をされたに違いない。

単なる憶測だがそう伝えてみるとふむ、と悩むような仕草をした。

直後、光の声が聞こえて光が姿を現した。


--


「着流し、じいちゃんのだけどありましたよー。」

「一着しかないように見えるが。」

「あ、はい、吉継さん用です。」

「何故じゃああああああああああああああああ!!」


え、そんな落ち込まなくても。


「今官兵衛さんの用意しますから。」

「む、」

「洋服でも大丈夫ですかねぇ。」


うーん、と悩みつつ父の部屋へと向かう。


--


着流しをひょい、とわれに渡してまた違う方向へと向かった光。

それを目で追う暗。

その様子につい、ヒヒッと笑いが漏れる。


「・・・なんだ。」


聞こえていたらしく、む、と口を尖らせる。

随分と執着しているようよ。

まだ一日も共にいたわけでないというのに。


「いや?にしても・・・。」


輿がないのは不便極まりない。

数珠も無いゆえ正直に言うと何もかもが心細い。

病躯ひとつでは、おそらく。

光にすら、敵うか怪しい。


「・・・不便よ。」

「?」


意味が解らなさげに首を傾げた暗はやはり今日から馬鹿よバカ。

せめて三成でもいれば、何かが違っていたであろ。

しかしその三成もここにはおらぬ。

われをよく思っておらぬ暗と、われを知ってはいるもののこちらからしては素性のわからぬ娘子一人。

もしもあの話し合いの中生まれた『夢を介して』が実であれば、何ゆえ。

武器をもこちらへ送らなんだか。


「(・・・。簡単なことよ。この世には、戦が無い。武器は必要ない・・・。)」


しかし、それは、なんて。


「(無情なことか。)」


いや、よもやこれは今まで振りまいた不幸の清算やもしれぬな。








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