MobileVitamin!!

□その16
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(番外)ふたりごおくねんぼたん


「ほんとに何も無い。」

「・・・。」


ざぁっと広がるのはなんだか先の見えない部屋みたいで。

先の見えない廊下みたいで。


「これ、歩いていってもきっと突き当たりなんてないんだろうね。」

「・・・ああ、そうだな。」


口数少なくなった携帯を見やるとなんだか切なげに視線を落としていた。


「・・・タイマー、始めたぞ。」


あと、四億九千九百九十九万九千九百九十九年と三百六十四日と二十三時間と五十三分だ。

視線をそのままに携帯が呟いた。ずいぶんと、細かな数字だ。

動くのもあれだから、ごろんと横になってみた。そばに携帯が座った。疑問を含んだ視線が私をさした。

きょとんとしながら見返した。そっと視線は落とされた。


「何?どうしたの。」

「・・・いや。」


なんでもない。ぽそっと携帯は呟いた。どう見ても、なんでもなくはない。


「気になるよ。そんな目で見られたら。」


じ、と見つめながら言うと、視線が合わされた。

そっと、口が開いた。


「・・・なんで、あのボタン押したんだ。」

「五億年ボタン?」

「100万円なんてお前には必要ないだろう?」


きょとんとした。いや確かに、親の骨しゃぶって生きてるし、必要ないけども。


「駄目だったの?翼は嫌だった?」

「・・・お前が、辛くは無いか?」

「え?」


心配なんだ。視線が落とされる。手がそっと握られる。


「お前の気が、狂ったりしないかと、心配なんだ。」


俺がいても、大して役に立たないんじゃないかと、心配なんだ。

きゅ、と手を握る手に力が入った。


「・・・そんなこと、ないよ。」


起き上がる。そっと、手をそのままに、隣に座った。


「翼がいるから、五億年、大丈夫だと思ったんだよ。」


根拠の無い自信だけど、でも、大丈夫だと思ったんだ。

そっと笑いかけると、携帯は控えめに応えた。


「・・・そう・・・か。」


手が離された。その手が、頭に添えられて、引き寄せられる。

肩に、こつんと寄り添うように。


「・・・ここでのことは、忘れるんだろう?」

「うん。」


ちゅ、と小さなリップ音がした。髪に少し、感覚が降った。


「・・・好きだったんだ。いや、好きなんだ。」


言わないで置こうと思ってた。

小さな音声に、近い音声に、肩が震えた。

頭に触れる手が少し、震えてた。


「お前は主人で、マスターで、俺は携帯だ。ただの携帯電話だ。」


それでもこの人工知能が、AIが、メモリだとか、メインの機動力さえも、お前を欲してる。

好きなんだ。

ちゅ、と今度は耳に触れた。熱い、唇、が。


「思っても無い機会で・・・不謹慎な話だが、馬鹿みたいに、嬉しいんだ。」


さっきはお前の身を案じたけど、今は、お前がこのことを忘れる事実が馬鹿みたいに嬉しくて。

だって、これから言える機会なんてないと思ってたんだ。お前が、好き、なんて。

隠しておかないといけない感情だと思ったから。

震える音声で告げられた言葉に、なんだか胸のうちが熱くなる。

ああ、これは、もしかして、もしかすると。


「・・・翼?」

「ん・・・?」

「私も、すき。かも。」


これがなんていうのかも知らないけど、きっと好きなんだ。

そっと視線をそちらに向けるとそっとキスが降ってきた。

舌を絡める、深いのだった。息が少し、苦しくなった。


「・・・翼。」

「・・・ああ。」

「今だけでもいい。」

「ああ。」

「すき。」

「うん。」


またそっと唇が重なる。どちらとも無く口を開くと、侵入する舌が愛しい。

だんだんと力が抜ける。そのまま携帯が押してくるから、とさりと床に倒れこむ。

熱を含んだ艶やかな視線が私の目をさした。どくりとなにかが湧き上がるような感覚がした。


「翼。」

「ああ。」

「あいしてる。」

「俺も、愛している。」




MobileVitamin!!

(二人五億年ボタン)





これから五億年ずっと一緒、いずれ消える記憶でも大切なんだね真壁。




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