短いの3
□きっとずっとやまない
1ページ/1ページ
「貴女にはその色がよく似合う。」
「そんな」
「私と揃いだった菊の柄も、実に、実に似合う。」
「やめてください」
「その清きには、私は触れられませぬな」
「いやです」
ぱたり。一つ音がして、ちらりと空を見上げた。蒼い。
それでは、と彼女を見詰めた。ああ。大雨、ですな。
またぼろぼろとこぼれ落ちるそれは大粒で、前なんて見えてないだろうに、じっと真っ直ぐに私を注す視線が…酷く、綺麗で。
それに写る私がまた真っ黒で…白の混じる彼女のものと、まるで対称のようで…。
口角が上がった。けれど眉尻が下がった。幼子をあやすように、そっと頭を撫でていた。
「最後の命を差し上げます」
「いりません、いやです、」
「貴女は、…曹操のもとから離れてはなりませんぞ」
笑って見せた。いやだと仕切りに言う彼女を置いて、私は私の野望のために。
彼女には綺麗でいてほしい。奸雄といえど曹操は、彼女に汚いところなど見せまい。きっと私は、…そばにいたら見せてしまう。
私の野望のなかには、貴女は居ない。美しい理想のままでいてほしい。
少しだけ涙を掬った。雨はまだやまない。
きっとずっとやまない
(いかないで、陳宮様、)
(いかねばならないのです、私は。つれてもいけないのです、私は。)
自分勝手ですみませんな
2014/07/15