短いの2
□拍手だったもの
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よく降るな、とかってぼんやりと空を見上げる。はてさてどうしたものか。
天気予報を見忘れた私に空がもたらしたものは私の望んだものではなかった。さらさらと降る雨は確かに弱いが帰る頃にびしょ濡れは必至だ。
ちぇっ、と視線を落とす。先生に呼ばれて残っていたせいで友達が残っている可能性なんてものは皆無。
今日共に帰る約束をしていた星彩といえば私が呼ばれた時点で「先に帰るから」なんてにこやかに言ってくれたものだ。くそう。
「あ、」
「え?」
随分と素っ頓狂な声が聞こえて振り返ると徐庶先生。私を呼んだ張本人。
きょとん、と私を見詰めて固まっている。身長が高いので自然と見上げる形になって、取り敢えず動かないので手を視線の先で振ってみた。
「あのー、徐庶?先生?大丈夫ですか?」
「えっ、あ、ああ、ええと…」
ええとって何だ。あとなんでそんなに驚いて…あ、そうか、呼ばれて解放されてから結構経つもんな。
図書室に寄っていたし。
星彩のことは諦めていたし。
私は傘が無くて動けないのだけど徐庶先生は何で動かないのだろう。会話もなく立ち尽くすのだけど徐庶先生はなんだかそわそわしはじめる。
遠慮してるのかな。動いてもいいのに。傘も持っているのだし私を気にせず帰ればいいのに。
…というか何故生徒玄関から出てきたんだ。
疑問が出てきてうんうんと唸っていると徐庶先生が意を決したようにこちらを向いて口を開いた。
「あの…、」
「はい?」
「傘が無いのか?」
「そうですよ。」
「じゃあ、その…ええと…」
せっかくこちらを向いた目線をそっと反らしたりまた戻したりしている徐庶先生。
なかなか先に進まない話を時間もあるしぼんやりと待つ。
女生徒に休み時間プライベートな会話を持ちかけられたりしてこんな風になっていたのはよく見ているし知ってるのだけど私に対してそれは無いと思ってた。そもそも事務的な話しかしないし。いや、だからといって別に苛々とかしてるわけではなく。
とにかく何を言いたいのかわからずやっぱり待つしかない。
雲の隙間に少し空が見えた気がして止むかなぁとまた雨を見詰める。
「君さえよかったら、その、送らせてもらえないか。」
「は?」
やっと絞り出されたような声にぽかんとする。視線をそちらに向けると少しだけ頬が赤い。
…ええと。それは、はい?
「車なんだ。乗っていくといい。」
「え、」
今度は控えめに微笑みながら放たれる。いやいやいや、って、夏侯覇みたいだな。じゃなくて。
流石にそれは不味いのでは。生徒と教師でこそあれ、男と女だ。そしてそれは、この間柄だからこそなんというか、見栄えが悪い、というか。
確かに遅い時間になっているしありがたいことだ。けれど、その、なんというか、だから、先生、その顔です、もじもじしないで。というか赤面やめて。
じっと目を見られて逃げ場がない。うぐ、そしてその顔、勘弁してください、捨てられた子犬か。
精神的に追い詰められていると私の視界にいいものが入る。しめた。
「徐庶先生、その。」
「ん」
「お気持ちは嬉しいのですが先生の立場を危うくするわけにはいきません。」
「…え?」
「ですから傘を貸してください。」
にこりと笑って傘を指差すと徐庶先生がしてやられた、というように項垂れる。
直後、本当に残念そうな顔を上げて私に傘を差し出した。
「じゃあ、…明日、返しに来てくれ。」
私の手が先生の傘に触れると表情は一変、嬉しげに微笑んで約束を口にした。
day by day
(危ない橋を渡らされる予感が…)
(これで明日も会えるだろうか。)
徐庶さんよくわかってないけど卑屈っぽくて気になる。
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