みじかいの
□マシンガントーク
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「ねぇねぇターレっさん聞いたって!私実は今日誕生日なんすよ!」
「……そうか」
「ねぇねぇターレっさん!今日ブルマさんとこ行くんだけど何着ればいいすかねぇ?」
「俺に聞くな」
「ねぇねぇターレっさん!お腹空かないっすか?」
「……別に」
ことある毎に俺に話しかけてくるこの女。
俺の女と形容するにはまだ互いのことを知らなさすぎる。
かと言って他人という訳でもなく、同居人と呼ぶのがまだ一番しっくりくる。
「ねぇねぇターレっさん!」
基本的に奴はうるさい。
普段はターレスさん、と読んでくるのに、前に"ねぇねぇ"が入ると何故か促音便が追加される。
「その呼び方はやめろ。それと少し黙れ」
毎度毎度注意するものの、三歩歩けば忘れる、という絵に描いたような鳥頭らしい。洗濯をしてようが料理をしてようがそれは変わらず、ふと手を止めたと思ったらまた"ねぇねぇ"が始まる。
「ねぇねぇターレっさん!私ね、」
落ち着きのない奴だ。
身振り手振りで必死に表現しようとする様は滑稽で、好きな漫画がどうしたとかテレビがどうしたとか下らんことで腹を抱えている。
「……お前な、」
ちっとも話の内容は頭に入ってこない。表情だけで十分だ、と感じるあたり俺の方も何かおかしい。
「……でね、ターレスさ、む、」
「……黙れと言ったろうが」
不意打ちに唇に噛み付いて抱き締めてやれば、先まで囀ずっていたのが嘘のように止んだ。
「ッ、ひ!」
腰をすり、と一撫でしたら、上擦った高い声が出てきた。
こいつ、流されやすいタイプだろうな。
「何だ、もう喋らないのか?」
「はっ……な、何でッ、いきな、り…」
口を放して視線を絡ませて囁いてみせれば、奴は泣きそうな顔になった。
そうだ、やはりこういう反応でなければ面白くない。
本気で泣いて俺に跪いて赦しを乞う位になるまで焦らして心を折って虐め抜いてやりたい。懐かせるのでなく、俺にすがらせてやりたい。苦しくて発狂する姿も見てみたいし、薬漬けで思考能力も理性もぶっ飛んだ抜け殻の状態にもさせてみたい。
あぁ、結局俺はこいつが好きで、主導権を確実に握って支配したいだけなのか。
「っ…ターレス、さん」
腐った脳を持つ俺には優しすぎるくらいの声色で、名を呼ばれる。
「私、ターレスさんになら……」
ふふ、と震えつつも照れながら呟かれたその言葉を俺は疑いもしないし訝りもしない。
真意なぞ問うまでもない。
いつも饒舌な奴が初めて発した消え入りそうな声を噛み締め、物好きな女もいたもんだ、と内心でほくそ笑んだ。
(離れられない、かもしれない)