お題作品

□Side:幸村
1ページ/1ページ

 

光は眩しくてまともに見ることが出来ない。初めて見た時からその光に捕らわれていたのだ。きっと。
 何をするにしてもあやつが気になる。気になって仕方ない。仕事も手に着かなくなって六郎からは叱られる始末。
色事に関しては百戦錬磨のはずのこの儂が何という体たらくか。
だからこそ手に入れたい。自分のものにしたいという欲求が日に日に大きくなる。

いつも傍にいる六郎が今日はい
ない。この好機逃すわけにはいかぬ。早速、才蔵を供に連れだした。侍らすだけでも心が躍った。日課である町の見回りが、いつもより楽しくて浮かれてしまう。そのせいだろうか代々伝わる守り刀を授ける気になったのは。後ろを振り返った。すると才蔵と目があった。何やらそわそわして急に目をそらしてしまった。あやつめ、変に意識してしまうではないか。とりあえずこっちへ来いと手招きした。素直に近づいて来たところに守り刀を握らせる。何か言おうとして形の良い唇を動かそうとしたので、すかさず「何、別にどうということはない。ただおぬしに持っていて欲しいと思っただけだ。これを儂と思って大事にしてくれよ。」と言った。この言葉は本心だ。儂の中での守り刀はおまえだ。いつまでも傍にいてほしい。そして儂の分身だと思って身に付けて欲しい。いつも心はおまえと共にあるという意味を含んでいた。どこまで伝わっているのかわからぬが、受け取ってもらえたことでなんだか安心した。だが、この事が六郎にバレたらとんでもないことになる。少し秘密を共有していることも手伝って、大胆になっていたようだ。才蔵の耳元でこう囁いた。「このことは内緒だぞ。特に六郎にはな。二人だけの秘密だ。」まるで子どものようにニヤッと笑った。才蔵はというと、みるみるうちに赤くなり慌てた様子だった。
なんだおぬし儂に気があるのか?こんな態度をとられると、期待してしまうではないか。全くもっておぬしは儂を翻弄する。
ちょっとばかり気恥ずかしくなってわざと大きな声を張り上げて「さて、帰るとするか!」とさっさと城に向かって歩き出す。
光はまともに見れぬ。見れば目が眩む。その眩しさに今は目を背け、自分のものになる日を待つ。

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ