お題作品
□何で君には分かってしまうの。
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俺には恋人がいる。
だがしかし、それは女ではなく―――男だ。
名を甚八。
海賊の頭領をやっていたが幸村のオッサンに勧誘され、十勇士の一人として上田に居る。
……まぁ甚八とこういう関係になったのは色々あったからなんだが………察してほしい。
だが問題はそこではない。
俺は伊賀忍。故郷から察することが出来るのは、俺に想う感情の制御は勿論、伝え方も甘え方も知らない。
初めてだから。
今は亡き親友や、幼馴染、伊佐那海達に出会ったことで人を想う―――絆の大切さを知ることが出来た。
だけど誰かを好きになるなんて今までなかったから、どうすれば良いのか皆目見当もつかず、思わず悪態をついては、一人で落ち込んでいた。
…正直、伊佐那海が羨ましい。
彼女は素直で愛らしい。
実際、自分は伊佐那海のそういうところに幾度も救われているから。
対して自分は全然素直になれない。彼も次第に呆れて挙句愛想を尽かしてしまうのではないか―――後ろ向きに考えてしまう。
一人悶々としていると後ろから抱き締められ―――嗅ぎ慣れた煙草の匂いに、ギクリと肩を震わせた。
あァ心臓の音がウルサイ。
「なーに一人で黄昏てんだよ、才蔵」
「甚、八…」
いつもいるヴェロニカの姿が見当たらない。
「なァ才蔵」
「…………何だよ」
怖い怖い怖い。
彼の口から、いつか言われるであろう一言を聞くのが怖い。耳を塞ぎたくても、甚八に抱き締められているので、叶わなかった。
「………何を怖れてる」
確信した問いかけ。
また怖くなった。理由は、わからないけれど。
「才蔵、お前はいつもそうだな。肝心なところで俺には何も言わない。聞いてこない」
この男は鋭い。
その聡明さに、怖くなる。
「なァ」
甚八の声が、囁くように耳朶を叩く。―――ほろりと、何かが甚八の浅黒い腕の上に落ちた。
「怖くないから―――泣いてくれるな」
その言葉がきっかけとなって、俺の目から涙がぼろぼろと溢れてくる。
止まらない勢いに俺は唇を噛み締めて声を押し殺すと、甚八の指が優しい仕草で俺の唇を開かせて、腕を更に俺を強く抱き締める。
「甚八…」
「俺はちゃんとお前を愛してる」
はっきり言い切り、甚八は俺の首筋に顔を埋めてしまった。
「だから………安心して、俺様の傍に居ろ」
傲慢な物言いに無性に安堵して、唇を綻ばせて、目を細める。
「……アンタに言われずとも」
素直になれずに言い返せば、「わァってるってー」と顔を上げさせられたかと思えば、唇が重なった。
何で、俺の気持ちがわかるんだろう。
わからないけれど、心あたたかくて、嬉しい気持ちになる。
「好きだぜ。俺だけの与頭どの」
「………しってるよ、俺だけの勇士どの」
抱き締められて、口付けられて、それだけで心落ち着くのは―――それは、俺がこの男を想っている他ならない。
だから、あなたはいつも俺をわかってくれているのだろうか。
何で君には分かってしまうの。