お題作品

□助けにいくよ
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里外れの小高い丘は、俺とあいつの訓練場だった。

あいつとは、俺の親友。そして、憧れの存在だった。心身共に強かったあいつを目標とし、追い付きいずれは超えたいと思っていた。

その為にも、
(ずっと傍にいられたら…)
傍にいることは叶わぬことだと知っていた。
あいつは自分の生涯を掛けて、仕えることのできる主を求めていた。
いずれ、別々の道を歩むことになる。
(そんな日が来なければいいのに)
そう考えていた自分に驚いた。

自分の中で何か新しい感情が生まれ始めていたのだ。その感情には気付かないように、認めないようにしていた。
でも、もう認めるしかないようだ。
傍にいたいと思うのは、親友、憧れだからじゃない。
俺は、いつの間にか好きになっていたんだ。
親友に対する好きではなく…。


あいつとの別れの日は、すぐにやってきた。


二人での訓練が終わり、あいつが
「才蔵。話があるんだ。少しいいか?」
そう言いながら真剣な眼差しを俺に向けた時、嫌な予感がした。
「…別に構わないけど」
声が震えた。
拳をきつく握り締め、言葉を待った。

「主を見つけた。俺は里を出るよ」
やっぱり。嫌な予感ほどよく当たる。
「才蔵?」
目前に手が近付いてきて、頬に温かな感触が伝わってきた。
「なっ!!」
俺は思わず後退りした。
触れられた頬が熱をもったように熱い。
「才蔵?」
「…よかったじゃねぇか」
本当はそんな風に思っていない。
「…才蔵」
「お前、ホントすげぇな。自分の望む道にちゃんと進めている。自分の行く先が見えている」

俺は何故か笑っていた。
笑いたくもないのに、笑っている。

「お前だったら、ちゃんと任務を果たすんだろーな。
俺も負けていられねぇぜ」
別れの日が来る事はわかっていた。わかっていたんだ。

応援してやるのが
―――親友だよな。

「頑張れよな」
俺は笑顔の仮面を被り続けた。
「ああ。ありがとう。才蔵も」
「お前より強くなってやるからな。覚悟しておけよ」
「才蔵は強くなるよ。里一番になれる」
「そうだな。里一番の強者になってやるぜ。困ったことがあったら伝達寄こせよ。
安くしておくから」
「何だよ。俺から金を取るつもり?」
「当たり前だろ。任務となれば話は別」

俺たちは少しの間、くだらない言い合いをした。
もう二度とこんな時間を味わえないと思うから。

「才蔵。俺に何かあったら、助けてくれよ。こんなこと頼めるのは才蔵だけだから」
笑顔が消えて真面目な顔になった。
少し様子がおかしい。
「俺の望んでいた事なんだ。けど…正直言うと不安もあるんだ」
初めて聞く弱音。
「こうやって、才蔵とずっといられたら…そう思う時もある」
あいつはまた笑顔になり、
「今の忍び失格の発言、忘れてくれ」
そう言いながら、苦笑いを刻んだ。

「仕方ねーな。大親友の頼みなら何処へだって、助けにいく。タダにしてやるぜ」
「才蔵。ありがとう」
この時のあいつの笑顔を俺は忘れない。

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