お題作品

□我が儘をきくよ、かわいい人
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先日、十勇士を纏める与頭が決まった。霧隠才蔵だ。
与頭になったからと言って、周囲は特に変わらず。元より才蔵を中心に纏まりつつあったのだ。それは才蔵が光たる所以か。

否。それだけではない。

彼は文句を言いつつも、面倒見が良いのだ。恐らく、責任感が強いのであろう。誰もが彼に惹かれる。

惹かれる対象に対し、向ける感情は人それぞれだ。今日も伊佐那海は仔犬の如く纏わり付くし、伊佐那海からくっついているのに離れよと清海は五月蝿いし、鎌之介は戦闘したがるし、佐助は手合わせしたがるし、主である幸村はセクハラしたがるし…挙げれば切りがない。
彼らの行動を羨ましくないと言えば嘘になる。しかし、それらから逃れる為に、才蔵が私の傍を避難場所にしている。それだけで充分だ。

ほら、今日も。

「六郎サン、匿ってくれ!」

部屋に降り立つ才蔵は、少し疲弊した様子で頼んでくる。構いませんよと返すと安堵したのか表情を和らげて腰を降ろした。

「あー…疲れた」
「御苦労様です。お茶でも淹れましょうか?」
「うーん、いいや。今はとにかく寝たい…」

その場で横になり、腕を枕にして眠りに着こうとする。私は慌てて止めた。

「布団くらい敷きなさい、貸しますから」
「んー…いいよ、畳の上で」
「枕くらい…」
「……」

相当疲弊しているらしい。喋るのも億劫なのか、才蔵は目を閉じてしまった。
忍なれば、外で眠る事もある。屋内であるだけ環境的には良い方だが、畳の上では疲れが取れにくいだろうに。
まだ完全には寝入っていないが、枕を用意している間に寝入ってしまうだろう。そうなる前に、と私は立ち上がった。気付いた才蔵が目を閉じたまま「どうしたー?」なんて眠たそうな小さな声で呟く。

「せめて枕くらいなければ、疲れが癒せないでしょう?」

才蔵の傍に座り、頭を持ち上げて畳との間に膝を差し込む。所謂、膝枕だ。やってみると気恥ずかしい。最初はされるがままだった才蔵だが、現状に漸く気付いたのかカッと目を見開いた。

「うぇ!?えっ!?六郎サン!?」
「…嫌ですか?」
「い、嫌じゃないけど…」

頭を撫でながら質問すると、しおしおと大人しくなる。膝の重みの心地好さに思わず笑みが漏れた。髪を梳けば、さらさらと手触りが良く、まるで猫のようだと思った。
強張っていた身体から力が抜け、再び瞼が閉じていく。

「…なぁ、六郎サン…」
「何です?」

微睡みの中、才蔵が呟く。今にも夢の世界へと旅立ちそうな彼の邪魔はしまいと、柔らかな声で返事をした。

「…起きたら、1個くらい我が儘きいてやるよ」
「……何ですか、いきなり」
「六郎サンて、我が儘言わないからさぁ…」

寝返りを打ち、ゆるゆると目を開く。ふわりと微笑んだ。

「俺くらいは、きいてやる」

言い切ると再び目を閉じ、穏やかな寝息が静かな室内に響く。もう深い眠りに落ちたのだと気配で感じた。

(私が甘やかそうと思ったのですが、ね)

普段から勇士の相手で疲れているだろうに。私だけは彼の安らぎの場であろうとしていたのだが、才蔵がこうして気を使うとは思わなかった。与頭としての義務だろうか。
そんなものはいらない。皆と同じ扱いなどいらないのだ。

(でも)

袴を握り締める手と無防備な寝顔に淡い期待をしてしまう。
私だけ特別なのだろうか、と。

(いや、特別にしてみせる)

折角、我が儘をきいてくれる機会が出来たのだ。利用しない手はない。
穏やかに眠りこける才蔵とは対照的に、私は邪笑を浮かべながら、どんな『我が儘』を言おうかと考えていた。


我が儘をきくよ、かわいい人
(我が儘は…え、添い寝!?)
(駄目ですか?)
(いや、その…〜っ、六郎サンだけだからな)
(!)

 

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