〜天龍の誓い〜

□母の温もり
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次の日―



「梵天丸様。天宮晃です」

「…」


障子から声を掛けても昨日同様に返事がない。
それには気にせずにまた許可もなく部屋に入る。

部屋に入ると梵天丸は相変わらず部屋の隅に此方に背を向けて座っていた。



「険のお稽古の時間です」

晃は梵天丸の背後に座り、静かに声を掛ける。


「…行かない。帰れ」


「いいえ。帰りませぬ」


キッと鋭い目線を見せる梵天丸に顔色一つ変えない晃。


「貴方が行かないのであれば、俺は此処を動きません。」


「…テメェ、昨日も今日も俺の勘に触るんだよ!!二度とその面見せんじゃねぇ!」


晃の宣言が気に食わなかった梵天丸は近くにあった肘掛けを彼女に投げつけた。


バシッと鈍い音が頬に響き、ジンジンと痛みが伝わってきた。


それでも、無表情のまま晃は同じことを繰り返した。


「貴方が行かないのであれば、動きません。」


「チッ!!」


立ち上がった梵天丸は晃に詰め寄り、胸ぐらを掴み上げた。


「小十郎ならまだしも…誰がテメェの言うことなんか…」


そう思って殴ろうとすると「梵天丸様っ!!」と聞き覚えのある男の声が鼓膜に聞こえてきた。


気がつけば梵天丸の腕が誰かに掴まれ、振り返ると知っている男が其処にいた。


「小十郎」


「いけませぬ。梵天丸様。このモノは容姿は男にござりまするが、本当は―」


「よせ、片倉!」



小十郎と呼ばれた男の言葉を遮る晃の眼光は鋭く梵天丸は息を呑んだ。


「―…いらぬことを申すでない。」


少しドスの利いた声で言うと小十郎は「すまぬ」と謝罪した。


「…」


黙ったまま二人の成り行きを見ている梵天丸に晃は小十郎に視線を移したまま話かけた。


「貴方が私を嫌っていても構わない。…ただ、此だけは覚えていて欲しい。」



「…?」


「―…俺は…如何なる時も貴方の味方。貴方の為なら何の罪でも被りましょう。例え、それが伊達家に関わる事態であっても」


「………お前」



晃の横顔を見つめる梵天丸は彼女の強い意志をその姿に感じた。


一瞬。ほんの一瞬だが、彼女を信じてもいいと心の中でそう思ったのは…気のせいではない。


「今日は片倉に任せます。では、俺は此にて」



クルッと踵を返し、金髪の脚にまでかかりそうな長い髪をはためかせ晃は彼の部屋を出て行った。
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