天の時渡り

□戦国の世
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「いいんかよ、オッサン」

六郎に詩穂の部屋を用意させる支度を告げた幸村。伊佐那海は勇士たちを紹介すると詩穂を連れて部屋を出て行ってしまった。


部屋に残った才蔵は幸村に聞いた。


「勇士はもう10人も揃ってるんだぞ?」


「いや、勇士にする気はさらさらない。」


煙管を吸って、相変わらずな態度を見せる幸村。


「(やっぱり、このオッサン―…喰えねーよな。他に何を考えてるんだ。…まさか…な。)」


「可愛い女一人に何もやらないなんざ男が廃れるだろう?」


「(だと思った!)」


幸村は鼻の下を伸ばしながらニヤニヤと笑うものの、予想が的中した才蔵は頭をかかえた。


「―…っというのは嘘だ。」



キリッと表情を変えた幸村。


「んじゃ何なんだ?」


全くこのオッサンは!という感じで溜め息を漏らす才蔵を尻目に幸村は真剣そのものだ。


「―…昨晩の"あの侵入者"…似ていなかったか?」

其処で才蔵も普段の忍びらしい顔付きになる。


「あぁ、俺もだ。だが、あの女からは何も感じねぇ…」


「詳しく聞かなければなかろう。それに、彼女は未来から来た者だ。」


未来から来た者という言葉に才蔵は反応した。


「オッサン。まさかあんた…あの女の言葉信じて―」


「あの者の目は、綺麗な目だ。嘘偽りのない…温かい目だ。その様な者がワシは嘘を付けるとは思わん。」



「オッサン…」


幸村の脳裏に浮かぶのは先程の彼女の姿。見知らぬこの時代に来ても、決して取り乱さず、弱音も吐かない強い眼差しに幸村の心が揺れ動いた。だから、伊佐那海の意見にも賛同した。


「―…ワシはあの目が気に入ったのかも知れんな」


こんな時代の人間とは違う女としてではなく、彼女の強い眼差しに。

「…」



才蔵はそんな幸村の姿をただ黙って見ていた。
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