Novel V

□Thanksgiving
3ページ/9ページ

管理所に花や線香を買いに行き、慣れた手つきで墓の手入れをするsakuraを
手伝うでもなく佇むhydeに、sakuraは火をつけた線香の束を差し出した。


「…供えてやってよ」

「え、…あ、オレは…」

いいよ…、と続けようとしたが、sakuraの穏やかな瞳に捕まって、hydeはその言
葉を飲み込むと、恐る恐るそれを受けとった。

たゆたう繊細な煙を押し黙って見つめた後、hydeは心したように歩を進め、
そっと線香を供えた。


両手を合わせた後、何の気無しに墓石に触れ、その温かさにhydeは僅かに目を見
開いた。


「…あったかい…」

「あぁ…、日が当たるから…」

生前の温かさを思わせるそれに、hydeはもう一度、愛おしげに墓石を撫でた。



「……ありがとう…ございます…」


何年となく心に秘めていた言葉を紡ぎ出す。


「…ありがとう…、やっちゃんを生んでくれて」

「…hyde…?」



一陣の風が、sakuraと出会った頃の思い出を運んでくる。

初めてsakuraに会った時は、このような関係になるなんてこと、
微塵も感じていなかった。

それはsakuraも同じであろう。


出会った頃のsakuraは少し怖いような雰囲気だったが、話してみたら気さくな性
格で、hydeもすぐに仲良くなった。



20年という人生の半分を占める、L'Arc-en-Cielというバンドの歴史。

様々なことがあったが、今でもhydeが思い起こすのはsakuraが在籍していた時の
ことばかりだ。



彼の頼んだ酢豚を食べてしまったり、真剣に音符の形の話をする姿に興味を覚え
たり…。



指輪を買って貰った。


よくご飯を食べに行くようになった。

家にも遊びに行くようになった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ