Novel V
□Thanksgiving
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管理所に花や線香を買いに行き、慣れた手つきで墓の手入れをするsakuraを
手伝うでもなく佇むhydeに、sakuraは火をつけた線香の束を差し出した。
「…供えてやってよ」
「え、…あ、オレは…」
いいよ…、と続けようとしたが、sakuraの穏やかな瞳に捕まって、hydeはその言
葉を飲み込むと、恐る恐るそれを受けとった。
たゆたう繊細な煙を押し黙って見つめた後、hydeは心したように歩を進め、
そっと線香を供えた。
両手を合わせた後、何の気無しに墓石に触れ、その温かさにhydeは僅かに目を見
開いた。
「…あったかい…」
「あぁ…、日が当たるから…」
生前の温かさを思わせるそれに、hydeはもう一度、愛おしげに墓石を撫でた。
「……ありがとう…ございます…」
何年となく心に秘めていた言葉を紡ぎ出す。
「…ありがとう…、やっちゃんを生んでくれて」
「…hyde…?」
一陣の風が、sakuraと出会った頃の思い出を運んでくる。
初めてsakuraに会った時は、このような関係になるなんてこと、
微塵も感じていなかった。
それはsakuraも同じであろう。
出会った頃のsakuraは少し怖いような雰囲気だったが、話してみたら気さくな性
格で、hydeもすぐに仲良くなった。
20年という人生の半分を占める、L'Arc-en-Cielというバンドの歴史。
様々なことがあったが、今でもhydeが思い起こすのはsakuraが在籍していた時の
ことばかりだ。
彼の頼んだ酢豚を食べてしまったり、真剣に音符の形の話をする姿に興味を覚え
たり…。
指輪を買って貰った。
よくご飯を食べに行くようになった。
家にも遊びに行くようになった。