Novel V
□Thanksgiving
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「…行きたいところがあんねんけど…、いい?」
物静かに口を開いたhydeに、sakuraは僅かに首を傾けつつも「あぁ」
と短く頷いた。
11月20日、風もなく、よく晴れた日のことだった。
冬の匂いを忍ばせた秋の日差しに温められた車内に乗り込んでから暫く後、
hydeの口から告げられた場所にsakuraは少なからず驚いた。
「なんでまた…」
「…嫌ならええんやけど…」
はかなげに揺れる微笑に、sakuraはアクセルを踏み込みながら頭を振った。
「いや…嫌じゃない、…行こう」
hydeはそれきり口を開かず、sakuraも音楽もラジオもかける気にならず、
ハンドルを握り続けた。
時折助手席に目をやるとhydeは窓ガラスに頭をもたせ掛けたまま瞳を閉じ、
揺れに身を任せている。
寝ているのかと思えばその大きな瞳を瞬かせ、sakuraの視線に答えるように
口元を引き締めるような微かな笑みを浮かべてみせた。
hydeはゆったりと背を預けると、体に響くエンジンの音に耳を寄せ、
流れ行く車の列に過ぎた年月を重ね見た。
その言葉を口にするには、なぜか決意が必要だった。
あれからすでに4年…。
本来ならばもっと早くに足を運ぶ予定ではあったが、hydeの心に暗く巣くう、
臆病な思いが自然と彼の足を遠退け、口を重くしていた。
hydeは無意識に自らの両手をきつく握りしめていた。
「…ここだけど」
「……うん」
sakuraに促されても、hydeはその場に立ち尽くしていた。
hydeが望んだ場所は、sakuraの母の墓前だった。
目の前で鈍く光る石を見つめながら、hydeは信じられないような、虚しいような、
言いようのない思いに動けずにいた。