Novel V

□白い記憶
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「………もしもし…?」
『…やっちゃん?ちょっと……、外見てっ』
僅かに弾んだhydeの声にふと予感がして、オレは自室の窓に寄ると、黒いカーテンを少しめくってみた。

「…あ……」
やっぱり。
『ね?雪…』
楽しそうにクスクス笑う声が響いてくる。
『東京でも少しは積もるらしいよ』
「へー……」

『…やっちゃん…、今から…行ってもえぇ…?』
「…え?いいけど…。仕事終わったの?」
『うん…、もう出れるから…』
「迎え行くか?」
『ううん、ええよ。寒いし、部屋で待っといて』
「分かった…」
すぐ行くから〜、なんてちょっとはしゃいだ声を残して、電話は切れた。

「…うれしそうだね〜…」
なんて、見えない相手をからかってみる。


「さて…と…」
再びカーテンの隙間から外を伺うと、先程より白くなった世界。
「積もりそうだな…」
ますますはしゃぐであろう彼を思うと、口元が綻ぶのを止められなかった。

「………」


普段なら、オレは寒いのなんて苦手だから、敢えて雪の降る場所になんて行かな
い。
だけど…、今日はなんとなく、降り注ぐ雪を近くで見たいと思った。
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