Novel V

□F
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あなたのことが好きだから―――

あなたの全てを知りたくて…


あなたの全てを手に入れたい…





「え?…やっちゃんが歌うん?」
「そ。社長命令」
Sakuraがタバコをくわえた口元をわずかに持ち上げると、hydeは少しだけ眉を動かした。

「ジャックがぁ?…横暴…」
言葉の割に、hydeの表情は楽しそうである。

「やっちゃんが歌ねぇ。…たまにはえぇかもね」
「だろ?」
「……でも…、誰がやっちゃんの後ろ叩くん?」
ふと、首を傾げたhydeは、その瞳に一瞬にして不穏な光を宿らせた。
「…そうや。オレが叩いたるわ」
「…え?hydeが?」
「やっちゃんが歌うなら、オレがドラム叩く」




あなたのことが好きだから―――


好きで好きで………


全て一緒になってしまいたい―――




僅かに歪んだ感情。






「―――こう?」
「ん、そうそう。…うまい」

二人で時間を見つけての練習。
「解らない」「教えて」は全て睦言。




けれど、あっという間に時は経ち、本番当日を迎えてしまった。


「…hyde大丈夫?」

直前まで心配し、スティックごと握る手も、見つめる瞳も。


全て自分のものにしてしまいたい。



「…うん。…大丈夫…」
瞳を反らすことが出来なくて、hydeはゆっくりと瞬きながら頷いた。




ステージの上はライトの為か真っ白に輝き、hydeは浅く息を飲み込んだ。

歓声が耳の中でエコーし、脳が揺れるような錯覚。


そんな中、彼の声がhydeの耳に届く。

はっきりと覚醒を促され、リズムを刻む。



そこに彼の声が伸びやかに乗って……。





ふと視線を上げると、hydeの視界には黒い背中が見える。
キラキラと光を浴び、黒が白へと変わる―――

そのまま飛んでいってしまいそうな錯覚さえ覚える。

抱き留めたいのに、まるで呪いのように体はリズムを叩き続ける。

縮まらない距離がもどかしいのに、無防備な背中が愛おしい。






やっちゃん―――



hydeが心の中、呟いた瞬間、Sakuraの背中が振り返った。


―大丈夫だから



光が反射してよく見えないけれど、hydeにはSakuraの語る言葉が伝わった。




瞬間、何かを掴んだ気がして、hydeはそっと瞳を閉じた。






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