短編

□離さない
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幸福って何だろう。
幸福とは個人によって大きさも価値も全てが違う。

俺は………



窓の無い薄暗い部屋に、扉には何重もの鍵。鎖で繋がれ、キングサイズのベッドに寝返りを打つにも枷が腕に食い込む。
数々の陵辱により真白い身体に広がる無数の痣とキスマークで埋まっている。


俺をこの部屋に閉じ込めた奴はとても綺麗な年下の男だった。
そして、かなりのサディスト。暴力は当たり前。以前は一週間放置され、死にかけたこともある。


そして、独占欲が強い。

俺が彼以外に少し触れただけで怒り狂い、そいつを殴り顔と俺に触れた部位が取れてしまうのではないかと思うほどぐちゃぐちゃにしていた。

殴られた奴は顔に少し自信があったらしい。
顔は潰されたまま元に戻らず、そいつは今精神科で入院していると動けない俺の世話をしている彼の幼馴染みが悲しそうに笑いながら言っていた。


精神科にいる奴が俺に触れるまでは使用人が世話をしていたが、彼が心配で堪らないらしく彼の幼馴染みが俺の世話係になった。


彼は知っていたのかもしれない。俺が彼の幼馴染み、遙と付き合っていたことを。

まあ、昔に捨てられたが。

キスもしたことが無かったが、あの頃が一番幸せだった。誰も気付かないようなひっそりとした付き合いだった。

でも、俺は遙にだんだん深く依存していった。

だから捨てられた。

「気持ち悪い」
と言われて。

そして会うことも無くなった。

だけど今は会話ができる。目を見て話すことも、彼以外の名を呼ぶことも許されていない。
遙の名さえも。
触れ合うこともできないし、愛も囁けない。


この部屋には把握しきれない程の監視カメラと盗聴器が仕掛けられている。俺達の行動も会話も筒抜けだ。

彼は試しているのだ。遙の忠誠心と俺は彼への愛を…。裏切ればきっと遙の命は無いだろう。

だからこれは俺の愛だ。
遙を殺されないための、そして遙と少しでもいるための…。

そのためなら彼にいくらでも抱かれよう。自ら身体を開いてやろう。

愛してるよ、遙………
絶対に離さない。



そして俺は幸せをつかんだ。



→後書き
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