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□再会ラヴァー(1)
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PEASE-00 CE.71



「キラが死ぬはずない! キラがっ、キラが――!」

 ヘルメットの中を涙に沈めながら、アスランは漆黒の宇宙に向けて叫んだ。極寒の空間にただ浮かび漂うのは、一部が焼け焦げボロボロに壊れた、今やただの鉄屑に成り果てている、フリーダムの残骸。その中に愛すべき幼馴染みの姿はなかった。

 開け放たれたままのストライクルージュのコックピットから、主人を求めて飛び立った緑色のロボット鳥は、辺りをさ迷った挙句アスランの元へと帰ってきてしまった。主人であるキラの生体反応を感知するセンサーが内蔵されているにもかかわらず、見つけられなかった事実がアスランを打ちのめす。

「そんな、馬鹿なことッ!」

 創造主であるアスランの慟哭を、感情のない小さな鳥は、小首を傾げる仕草で見つめていた。それはかつて最もキラが、可愛いと気に入ったそれでもあった。

「キラ――――…ッ」


 同じコックピット内にいるキラの双子――自称姉の――カガリは、大きく項垂れ肩を震わすアスランに掛ける言葉も見つからず、ただ呆然と、目の前の事実を、キラの死という事柄を受け止めることもできずに、途方に暮れた表情で広大な宇宙を眺めた。

 空(から)のフリーダムのコックピット。そこは、あのオーブの浜辺で見た、破壊されたストライクの焼き焦げ半ば溶けた惨状にくらべたら綺麗なもので、生々しい跡は何一つ残っていない。だったらキラが、即死した可能性は少ない。もしも、無傷で投げ出されて、今も孤独に宇宙空間を漂っているとしたら――。

 まだ生きているかもしれないという現実は、けれどカガリに希望を与えてはくれない。だって、いくらパイロットスーツを着ているといっても、酸素がどれほど持つというのか。

 無数の星屑の中に浮かぶ戦闘の残骸は膨大で、その中からたった一人を見つけるだなんて。掘り出した泥から小さな宝石の原石を見つけるより、きっと難しい。絶望がカガリの胸を占める中、まるで自分に言い聞かせるように叫んだ。

「まだ死んだって決まったわけじゃないだろう! 嘆く前に、手遅れになる前に」



***


 ――二年後。オーブ。

 あの戦闘でキラはMIAと認定された。戦闘中行方不明。けれどそれの意味するところ、軍にいるものならば知らないはずなかった。

 たぶん死んだのだろう。けれど生きているかもしれない。それは残された者にとって、死が確定するよりずっと残酷だ。本当に死んだのなら、心を占める悲しみは、いつか自然に癒されていくはずだった。けれどこんな宙ぶらりんな状態では、諦めることもできない。どうしたって、いつかいつかと希望を持ってしまう。

 最初はいい。『いつか』は明日であり明後日であり、一週間後であるかもしれない。それが一ヶ月経ち、半年、一年と過ぎると、希望より不安が大きくなり、やがて絶望に変わる。それがどんどん酷く小さく見える。

「また来ます」
「ええ、待っているわ。気をつけてね」

 寂しげなカリダの微笑みに見送られて、アスランはヤマト家を後にした。この二年、こうして時々アスランは、ヤマト家に通っていた。キラの両親を励ましながら、自身がキラを諦めない為でもあった。


 最初の一年は、キラの行方を――情報を求めて、アスランはネットの中の専用掲示板を眺めて過ごした。そこには、あの戦争で病院に収容された身元不明の入院患者、もしくは運よく回収された死体の特徴、遺留品などが地域ごとに細かく記入されている。場合によっては写真もあるし、身元不明な者も、また多くいた。

 あの戦争で不明になった家族を持つ者は、家族の写真を貼付して情報提供を訴える一方で、僅かな希望にしがみつく思いで入院患者の情報に目を通わせ、胃が締め付けられるような苦しさを堪えながら、遺体の情報までを確認する。そして、どれも違っていたことに落胆し、また安堵するねだ。

 似た年齢、特徴を持つ書き込みを見つけるたびアスランは、それが地球ならば足を運び、プラントならばイザークやディアッカに頼んだ。そして、そのどれも無駄足に終わっていた。

 それも二年が過ぎると、どちらの情報も新たに書き込まれるのは稀で、せいぜい長期入院患者が死亡した場合に、遺体リストの欄が増えるくらいだった。
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