●● B O O K 情報 ●●
□『執行人』
1ページ/3ページ
「今日の午後、罪人が連れてこられるらしいぜ。今度は親兄弟を焼き殺した凶悪犯だとさ」
そう言って部屋に入って来たのは、色黒で金髪の背の高い男。如何にも面倒くさそうな彼は、この塔の管理をする者の一人だ。
「――――またか。つい数日前も執行したばかりだというのに、最近特に多いな。春だからか?」
年季の入った執務机で書類に向かいながら頬杖をつき、冗談のようなことをくそ真面目に言ったのは、もう一人の管理人。
美しい銀髪を持ち色白で秀麗な青年だが、つんとした表情から冷たい印象を与える若者だ。
名は、イザーク・ジュール。
「っつーか、それ関係あるのかよー」
「統計では、暖かくなるとだな」
「世も末ってヤツかねぇ」
「無視するな、ディアッカァ!」
「うるさいぞ、イザーク」
こんな呑気なやり取りを日常的に繰り返している彼らだが、仕事の内容は殺伐としている。
ここは殺人を犯し、裁判で死刑が決まった罪人を収監する審判の塔。別名を黄昏の塔とも言った。 彼らは若いけれど、ここの管理人だ。
この国は小国と言われるほどではなくても、大国と言われるほど大きくもない王制の国。ほんの百数十年前までは、罪に対する罰は苛烈だった。死刑ともなれば、今では考えられないほど残酷な方法で行われていたらしい。
それが変わり今の形になって、犯罪が増えたかというとそうでもないのに、このところ頻繁に死刑囚が送られてきていた。
代々の家業というだけでこんな仕事をしている、まだ若い彼らだ。ぼやきたくもなるし、軽口くらい叩いていたいと、人の命に終わりを与える仕事なんてやってられない。
「お前も大変だよなー」
新たに向けられた矛先は、三人目の青年。髪は藍色で、瞳は宝石のように緑。肌は陶器のように白く、目鼻立ちは、何処をとっても端麗な。
無表情でも穏やかな面差しは、こんな場所でなければ多くの人の目を引いたに違いない。
彼の名は、アスラン・ザラ。
「・・・いや、別に。仕事だから」
急に話を振られて、窓際に一人ポツンと立って外を眺めていただけのアスランは、そっけなく答えた。
「相変わらず、愛想のかけらもない奴だ」
銀髪の青年が、いかにも不機嫌そうに吐き捨てる。
「いちいち気にすんなってイザーク、こいつは子供の頃からこうなんだからさ」
「だからってなっ」
「あー、はいはい。いいから、午後のお仕事の前に昼飯食っちまおうぜ」
「ディアッカっ!」
まだ何か言い足りなそうなイザークの腕を引っ張って立たせると、ディアッカは歩き掛ける。そして思い出したように振り返ると付け足した。
「アスラン、お前はどうする?」
一応視線を向けたアスランの答えは、
「俺は、いい」
やはりそんな素っ気ないもの。
「あっそ」
ディアッカは、たいして気にした様子もなく、アスランを睨みつけたままのイザークを引っ張って、部屋を出ていった。
それほど広くない管理室だけれど、二人がいなくなると途端に閑散とした雰囲気になる。
それぞれの執務机と、書類棚くらいしかない部屋だ。けれど元々が、騒々しいのが苦手なアスランは、静かになったことにホッと息を吐いた。
あまり他人とは関わりたくない。人付き合いは苦手だった。
人になど、余計な情を持ちたくないし、持つべきではない。そう、死んだ父に聞かされていた。それがいずれ家業を継ぐアスランが、自身を守る鎧になるだろうからと。