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□『執行人』
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「今日の午後、罪人が連れてこられるらしいぜ。今度は親兄弟を焼き殺した凶悪犯だとさ」

 そう言って部屋に入って来たのは、色黒で金髪の背の高い男。如何にも面倒くさそうな彼は、この塔の管理をする者の一人だ。

「――――またか。つい数日前も執行したばかりだというのに、最近特に多いな。春だからか?」

 年季の入った執務机で書類に向かいながら頬杖をつき、冗談のようなことをくそ真面目に言ったのは、もう一人の管理人。

 美しい銀髪を持ち色白で秀麗な青年だが、つんとした表情から冷たい印象を与える若者だ。

 名は、イザーク・ジュール。

「っつーか、それ関係あるのかよー」

「統計では、暖かくなるとだな」

「世も末ってヤツかねぇ」

「無視するな、ディアッカァ!」

「うるさいぞ、イザーク」

 こんな呑気なやり取りを日常的に繰り返している彼らだが、仕事の内容は殺伐としている。

 ここは殺人を犯し、裁判で死刑が決まった罪人を収監する審判の塔。別名を黄昏の塔とも言った。 彼らは若いけれど、ここの管理人だ。


 この国は小国と言われるほどではなくても、大国と言われるほど大きくもない王制の国。ほんの百数十年前までは、罪に対する罰は苛烈だった。死刑ともなれば、今では考えられないほど残酷な方法で行われていたらしい。

 それが変わり今の形になって、犯罪が増えたかというとそうでもないのに、このところ頻繁に死刑囚が送られてきていた。

 代々の家業というだけでこんな仕事をしている、まだ若い彼らだ。ぼやきたくもなるし、軽口くらい叩いていたいと、人の命に終わりを与える仕事なんてやってられない。

「お前も大変だよなー」

 新たに向けられた矛先は、三人目の青年。髪は藍色で、瞳は宝石のように緑。肌は陶器のように白く、目鼻立ちは、何処をとっても端麗な。

 無表情でも穏やかな面差しは、こんな場所でなければ多くの人の目を引いたに違いない。

 彼の名は、アスラン・ザラ。

「・・・いや、別に。仕事だから」

 急に話を振られて、窓際に一人ポツンと立って外を眺めていただけのアスランは、そっけなく答えた。

「相変わらず、愛想のかけらもない奴だ」


 銀髪の青年が、いかにも不機嫌そうに吐き捨てる。

「いちいち気にすんなってイザーク、こいつは子供の頃からこうなんだからさ」

「だからってなっ」

「あー、はいはい。いいから、午後のお仕事の前に昼飯食っちまおうぜ」

「ディアッカっ!」

 まだ何か言い足りなそうなイザークの腕を引っ張って立たせると、ディアッカは歩き掛ける。そして思い出したように振り返ると付け足した。

「アスラン、お前はどうする?」

 一応視線を向けたアスランの答えは、

「俺は、いい」

 やはりそんな素っ気ないもの。

「あっそ」

 ディアッカは、たいして気にした様子もなく、アスランを睨みつけたままのイザークを引っ張って、部屋を出ていった。

 それほど広くない管理室だけれど、二人がいなくなると途端に閑散とした雰囲気になる。

 それぞれの執務机と、書類棚くらいしかない部屋だ。けれど元々が、騒々しいのが苦手なアスランは、静かになったことにホッと息を吐いた。

 あまり他人とは関わりたくない。人付き合いは苦手だった。


 人になど、余計な情を持ちたくないし、持つべきではない。そう、死んだ父に聞かされていた。それがいずれ家業を継ぐアスランが、自身を守る鎧になるだろうからと。
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