My treasures

□tension
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開け放たれた窓から入る風が、ゆっくりと空気を揺らす。
表情を隠している前髪を耳にかけてやりたい衝動と戦いながら、そっと話しかけた。

「また一沙にいじめられたんか?」

そやって目尻をちょっとだけ染めてたら、やっぱり気になるやないか。

「だいじょうぶ、です! もう慣れっこですし」

嘘つくなや、泣いてたやろ。

口に出さずにちょいちょいと自分の目を指さしてやると、牧村は笑ったまま、ぐいと涙を拭った。

「……きつい、か? 一沙とのコンビは」

細い肩に視線を落として問いかける。
そんなか弱そうな身体で刑事なんか、やっぱり無理なんとちゃう?

「いえ、最初はつらかったですけど……本当に、慣れましたから。
 それに花井さんが注意してくださることは、知らないとダメなことばっかりだし!」
「せやかてあんな言い方はないわ。俺から一回、ガツンと言うたろか?」

俺かて、一回、お前にキツく当たってしもたけど。
でも、もうそないなこと、……せんやろし。

「だいじょうぶです! でも……ありがとうございます」

明るい顔のまま、頭を下げる。
肩から流れ落ちる髪がキレイで眩しゅうて、いつの間にか顔を背けとった。

「さよか。……何かあったらいつでも言うてこいよ」
「はい!」

なんやよう分からんけど

「よーし!」

なんて言いながら胸の前で小さくガッツポーズをしたと思ったら、財布を持って弾むように二課を出ていく。
何となく首をかきながら席に座った途端、うるさい連中が騒ぎ出しよった。

「豊さーん、あの時から光希ちゃんのこと、さりげなーく庇ってますよねー。気になるなあー」
「そうかあ?」

能天気な声にうやむやな返事をかえす。

「……桃色ぴょん」
「花井さんに見られないようにしてあげて下さいね。
 仕事中に浮かれるとはなんだ! と怒られるのは彼女ですから。
 ついでに色目を使うなとか何とか言われてしまいそうですし。
 本人の責任でないことで怒鳴られるのは、さすがに牧村さんと言えどもお気の毒です」
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