Stories
□罪と罰
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パタン、とモンステの扉を閉めると、連中の騒ぐ声が遠くなった。
俺は無言のまま、歩みを進める。
彼女も何も言わずに、数歩後をついてきた。
どちらも言葉を発しないままに、店から少し離れたところまで歩いて、歩道の脇の石垣に腰掛けた。
ビールを何杯か飲んだけど全く酔えなくて、寧ろ頭は冴えて行くばかり。
今、どうしてここで、こんなことをしているんだろう。
今から彼女に言おうとしていることを考えると、どうしてこういう結論に至らなければならなかったのか、自分でも良く分からなかった。
――それでも、
言わなければならないということだけは、はっきりと分かっていた。
「……名前ちゃん」
「……は、はい」
張りつめた彼女の表情。
何かに怯えているような、そんな顔。
俺も今、同じような顔をしているのだろうか。
「……ハハ、ダメだな……ちゃんと決めてきたはずなのに。いざとなると迷いが出ちゃって……」
「……え?」
不安げに睫毛を揺らした彼女を直視できなくなって目を逸らす自分は、やっぱり肝心なところで弱い。
虚空に視線を彷徨わせると、静かな夜風に微かに街路樹が揺れている。
そのまま時間が凍りついたように、世界は全ての音を失っていき、
冷たい静謐の中で、俺は自分の気持ちが落ち着くのを、待った。
……すうっと、浅く息を吸い込む。
「……名前ちゃん」
意を決して、口を開く。
何から伝えればいいのだろう。
何て言ってみても、全てが言い訳みたいに響くのかもしれないけど。
「……あの時、帰したくないって言ったのは、本心だよ。
本気で、名前ちゃんだけが欲しいと思った」
小さく目を見開いて、彼女が息を呑んだ。
俺の言葉をどう理解すればいいのかと、必死で思考を巡らせているのが分かる。
「……俺が言うと嘘くさいけどね」
言葉はどうして、こんなに難しいんだろう。
「でも、これだけは言っておきたかった。俺は、あの夜、この先ずっと名前ちゃんしかいらないと思った」
そう、過去形にするしかない。
あの夜には、もう戻れないのだから。
あのとき俺が傷つけた彼女の表情が、今でも瞼に焼きついて消えない――。